愛でるが故に花は濃く咲く






 時計を目にして慌てて布団から飛び起きた。
 出勤前だと分かっていたのに結局拒めなかった事を今更悔いても遅い、妙は急いで身支度を整え始めた。

 未だ布団に寝転ぶ男には見向きもせずに、仕事着に袖を通すと仕上げに髪を梳かし高く結い上げる。化粧をする時間もなく立ち上がりかけた所に背後で音がした。寝転んでいた筈の男が妙の背後にいつの間にか座り込んでいた。その緩んだ表情に妙は嫌な予感が過る。構っていられないと身を翻しかけたその時、項に濡れた感触を覚えた。
 思わずあげた悲鳴も虚しく、濡れた感触に加えて啄むように刺激を与えられて妙は声を耐えた。時刻は刻々と迫っているというのに男の攻めは止む気配がない。 

「いい加減に…」

そう言いかけた妙に男は口を離し飄々と呟いた。

「男除けを、な」

 仕上げとでも言うように項にキスを落とすとようやく身を離した。
 やっと収まった熱が項から全身に回っていくのを感じた妙は、本格的に寝入ろうとする男の頬をこれでもかと抓りあげた。






2016.02.23





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