幸せの帽子
赤い絨毯を掻き分けて何かを探す女をただじっと見つめた。
「帽子、あった方がいいかしら?」
そこら中に転がったどんぐりを手にして妙が振り返る。
「まぁねェよりはマシだろ」
適当に相槌を打ったのにそれを真面目に受け止めた妙はそうよね、と返してまた俯いた。陽が暮れかけているのに気づいて、項に目を落としたと同時に妙も振り返る。瞳が合わさって夕日が黒髪に溶けてつい見惚れた。
「陽が落ちますね」
何も言えずにいると妙が巾着から白い袋を取り出した。袋から透けるように赤が覗く。
「ないよりはマシでしょう?」
妙の手によって赤色をした毛糸の帽子が跳ねる銀髪を飲み込んでいく。
「これなら何処にいてもすぐに分かるわ」
されるがままの自分が滑稽な気がしたが目の前で愉快そうに笑む妙にやはり何も言えずに、けれど口元が緩むのは抑えられそうになく、それを見た妙も笑みを深める。
妙の掌の中で、帽子を得たどんぐりが嬉しそうにころん、と転がったのが見えた。
2016.01.01
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