密かなる罰
「あれれぇ、銀さんそれどこの猫に噛まれたのぉ?」
サングラスをずらして目を凝らす酔っ払いが首筋を指差した。
酒のせいで指先が小刻みに揺れているのを目にしてため息を吐く。
「ったく、長谷川さん飲み過ぎだろ」
手にしていた焼酎の入ったグラスを置いてやったのと同時に酔っ払いは机に突っ伏した。
このまま眠ってしまわれるのは厄介だと思っていると、くぐもった声が耳に届く。
「なに?」
「…っく、銀さんを噛んだ猫ォはよ、ひっく…さぞかし可愛いかったろうなァ」
耳を寄せるとそう呟いた酔っ払いがほんの少し顔をあげるとニヤリと笑う。その表情に苛立ちが募り堪らずに舌打ちをする。
ああ、可愛かったよたまんねーほどにな。
しかしお見通しだと言わんばかりの酔っ払いの態度が気に入らずそれに教えてやる義理もなく、スヤスヤと眠りに落ちた長谷川を置いて屋台を後にする。
――痕を残した罰です、脳裏に女の声と首筋に齧りつかれた感触が蘇ると足は自然と女の元へと歩みだしていた。
2016.01.01
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