触れ合うならその唇に





「失礼します」

準備室の扉を開けるも、そこに待ち人であるはずの銀八の姿はなかった。
誰もいない部屋に足を踏み入れると、陽射しがカーテンの隙間から差し込みむっとした熱気が妙を包み込む。
ソファまで足を運ぶつもりでいたが、あまりの暑さに窓を開けようとして、ふと銀八の机に飲みかけられた紙パックがあるのに目が留まる。

それは出来心だった。

そっと近づいて、紙パックを手に取るとストローを咥えた。
瞬時に甘味が喉を満たしていく。生温くなった中身はそれでも美味しさを妙に伝えてきてストローを口から外すと満足した。
ガタン、背後で扉が閉まる音がして妙は咄嗟に振り返る。

「うまい?俺の飲みかけ」

見られていた。たった今の自分の行動を思い返して、妙の心臓が高鳴り始める。
何も言えずにいる妙に、扉の鍵を掛けた銀八が目を細めながら近づいてくると、言い訳を口にするよりも先に腕を引き寄せられた。
重なり合う唇を分け入るように舌先が触れて来て、その先も甘さで溢れかえって妙は白衣にしがみつくしかなかった。




フォロワーさまより頂いたお題より『間接キス』





2015.07.30





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