花より団子より






「…何作ってんの?」

銀時は頬の筋肉を引きつらせながら入口の壁に背を預けると、鼻歌を奏でながら台所に立つ妙に尋ねた。

「あら銀さん、早かったですね。私の得意料理の卵焼きですよ」

ふふ、と語尾にハートマークでも浮かんでいそうな妙の言葉にさらに口元が歪みそうになるのを必死に耐えた。

「へ〜…っておい、まさかそれ…」
「えぇもちろん、お花見用です」



******


春の訪れにいち早く気付いた桜が蕾から花開き、週末には見頃になる。
それを知った新八が昼過ぎには仕事も片付きそうだと妙に話し、川沿いに並ぶ桜の下でお花見をすることになった。新八と神楽は場所を確保するために仕事が終わるとすぐさま現地に向い、残った銀時が妙を迎えに来ていた。


******



焼き上がった卵焼きを一度皿に移した妙は、棚から重箱を取り出そうとしていた。もうすでに焦げ臭い匂いが部屋を覆う。妙の料理を阻止すべく、早めに乗り込んだはずが時すでに遅く、目の前にある劇物から目を逸らせずにいた。

「お前な、これ自分で食ったことある?」

丁寧に重箱を洗い、水気を取り除いた妙が卵焼きを納め終えるまで眺めながら、心底困り果てたと訴えるように深いため息を銀時は吐き出した。こんなものをいつまでも耐えて食していたら、体がいくつあっても足りない。これを機会に妙には理解してもらわなければ。半殺しを覚悟して銀時は口を開いた。

「食った事ねーから、そうやって、…」
「もう、そう言うと思ったから、銀さんの分は作ってませんよ」

銀時の恨み言に妙は耐え切れずに口を挟んだ。呆気にとられた銀時が黙り込んでいるうちに、妙は用意してあった風呂敷に重箱を包んで、一度銀時を睨みつけ、ツイ、と不機嫌を顔に張り付けて背けると銀時を残して台所から出て行った。

妙の態度と言葉に一瞬動揺した銀時は、慌てて出て行った妙の後を追った。

「どうせ、私の料理は不味いって言いたいんでしょう」

背後にいる銀時を振り返りもう一度睨みつける。
確かに、妙の料理は食べられたものではなかった。しかし、面と向かって、不味い、と伝えてしまっていいのか、この期に及んで言い淀んでいると、妙はさっさと玄関を出て行こうとする。

「あ、おい!」

慌ててブーツに足を突っ込んで、出て行こうとする妙の腕を掴んだ。まるで夫の浮気に愛想を尽かした妻を引き留めているような心境に、こんなはずじゃなかったと頭を巡らせても遅かった。このまま妙の機嫌を損ねたままでは、自分としても耐えられそうになかった。

「何ですか」

眉間にしわを寄せるも、銀時の言葉に返事を返した妙に安堵すると、するりと言葉が零れ落ちた。

「その卵焼き俺によこせ」
「はい?」

言ってしまった後で冷や汗があとからあとから噴き出して止まらない。あれほど拒み続けていた妙の卵焼き=暗黒物質を回避できたというのに、初めから自分の分は用意されていないとなると、また話が違う気がして心臓辺りがモヤモヤと渦巻いてしまっていた。

「だから、お前の作った卵焼き、食うって言ってんの」

銀時の言葉に疑問符を頭に浮かべたまま、妙は瞼を何度もパチパチと動かす。

「でもさっきあんなに文句を…」
「いーから!」

妙の手元から風呂敷を攫うとそのまま愛車へと向かった。シートを開けてほとんど妙専用となりつつあるヘルメットと風呂敷を入れ替えると、シートを閉じた。
先程とは打って変わって、鼻歌でも奏でだしそうなほど機嫌を良くした妙が満面の笑みで銀時からヘルメットを受け取った。

「なんだかんだ言って、銀さん私の卵焼き食べたかったんですね」

嬉しそうににこにこと笑みを浮かべる妙に、銀時は、ははっ、と死んだ魚の目以上に生気をなくして笑みを必死に作って応えるしかなかった。









銀→→(←)妙


無自覚天然お妙さん。





2015.03.29





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