音のない夜
59巻より隙間補間銀妙。
シリアス甘
「…風邪引きますよ」
縁側で夜風に当たりながら空を眺めていると声がした。温もりが肩を覆う。この屋敷で寝泊まりする時、必ず妙が用意してくれていた半纏だ。それから寄り添うように右隣に腰かけた妙が同じように空を見上げたのが気配で分かった。
「ごめんなさい」
何も言わずに半纏に袖を通そうとすると、空を見上げていたはずの妙が俯いて呟く。何に対して謝っているのかなんて真意をつかなくても分かる。
膝に置かれた妙の拳がわずかに震えていた。
そっと妙に顔を向ける。髪の隙間に白い首筋が目に入って、銀時は目を細めた。
見廻組から逃げるように志村邸に転がり込んだのは夕刻頃。屋敷にいた新八が、妙の首筋に出来た生々しい太刀傷に驚き大慌てで手当てしていた。
傷口を隠すように覆うガーゼが女に似つかわしくなくて、銀時は無意識に奥歯を噛みしめた。袖を通すのを止め、代わりに半纏を開くと妙の手を引くと肩ごと覆う。冷えた肩が銀時の懐の温もりに触れて妙は一瞬震えた。
「野郎が言えなかった言葉を代わりに言ったんだろ」
耳元で囁く銀時の言葉に妙は小さく、頷く。そろそろと体の力を抜くと頭を預けた。
これ以上の言葉を紡ぐことは憚れると思ったのか、妙の口からは何も零れ落ちてはこなかった。
妙が行動に移さなくても、野郎の拳を食い止めて喜々を殴っていた。ただ妙に傷を負わせた代償が大きく、記憶を無くすほど殴り飛ばしただけの違いだった。
妙の肩口に埋めていた顔が髪を掻きわけると、首筋のガーゼに口づける。妙の瞼が少しだけ震えた。まるで消毒をするように、喜々が触れた場所を唇で辿って消していく。瞼を上げた妙と瞳が合う。見つめ合ったまま温もりを分け合うように、唇を触れ合わせた。
銀時の瞳の奥の真意に悟ったように、そっと目を閉じる。
これから先、迎えるだろう夜明けに向かって。
終
2015.02.19