愛は密かに囁いて
結んだばかりの紐を強く引っ張られフリルのついたエプロンがほどける。ただでさえ朝の業務に遅れそうだというのに、銀髪を爆発させた男は半裸姿のまま乱れたシーツの上で寝転んでいた。
「…もう行くの」
掠れた声が背中越しに聞こえる。
「仕事に遅れちゃうわ」
ため息を吐くと紐を掴んだままの指を一つ一つ開かせていく。やがて掌から紐がすり抜けると、もう一度妙は後ろ手で結び直す。寝転んだまま妙を見上げる銀時の瞳は恨めしそうに横顔を見つめていた。
「…お前本当に、そっけねェな」
銀時の言葉に、立ち上がった妙が振り返りもせずに言い放った。
「ご主人様を奉仕するのが勤めですから」
そう言い残してドアを閉めた。
男は分かっていない。ご主人様にもしも刃向かうようなことをしたら。
「…会えなくなるかもしれないのに」
朝の慌ただしい音が遠くで聞こえると、妙はもう一度鏡の前に立つと襟を直し、首筋に残る痕を隠すようにリボンをキツく結んだ。
執事×メイド
2015.01.18
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