Halloween2014







「Trick or treat」

聞き慣れない言葉と共ににじり寄る男は普段以上にだらしない顔をしていた。
私の頬に大きな掌が掛かって、ドキリと心臓が跳ねる。

何も言わないのをいいことに寄せてきた唇を、咄嗟に人差し指で制した。指先が男の唇に食い込む。
驚く男をよそに、私は懐を探ると好物である甘い飴の入った袋を取り出し目の前で揺らして見せた。

飴の登場に目を見開いたまま、まさに悪戯をしようと企んでいた男が固まる様を見て可笑しくて笑ってしまう。
決まり悪く、不貞腐れた表情になる男に仕返しとでも言うように口調を真似て口にした。

「Trick or treat…!」

当然お菓子なんて持っていない男を困らせるつもりでいたのに、

唇に当てたままの指越しに男の唇が笑うのが分かった。
私の指を掴んで退けると、器用に飴の袋を破き男は自分の口の中に放り込んだ。

「お菓子が欲しいんだよな?」

口に入れた飴を転がしながら男が笑う。それはいやらしさが増していて何を考えているのかすぐに見透かしてしまった。

「そ、それは…!」

言葉を紡ぐ暇もなく、指を引かれて唇がぶつかった。
すぐに舌がぬるりと入り込むと甘い飴を押し付けられる。

二人の間で溶ける飴の甘さにクラクラしてしまう。
仕返しするつもりがあっけなく絡め取られてしまい、悔しくて握りしめた男の二の腕に強く爪を立てた。







2014.10.31





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