内緒の指先
いつもより静かな万事屋の廊下を進み、居間の引き戸を開けると、ソファに横たわっている男を見つけた。
そっと近づいて顔を覗き込むと、すぅすぅと寝息が聞こえた。依頼が立て込んでいると新八から聞かされていて、その疲れが出ているようだった。
起こすのも悪く思い、手にしていた風呂敷を置こうとすると、背後で何かが動く音がした。
くぅん、白い大きな獣が妙の気配を察知して眠りから起きたようだった。
「定春君、こんにちは。」
頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を閉じる。
「私が来たこと、内緒にしててね」
小声で呟くと理解したのか、その場で体を丸くして顔を尻尾で隠した。
「何が内緒なの」
背後から掛けられた声に驚き、唇に指を当てたまま振り返った。今まで眠っていたはずの男が真後ろに立っている。寝起きでいつも以上に生気のなくした瞳が妙が見つめていると、腕を引かれて指先が躊躇なく男の唇に覆われた。
「っ!」
生温い口内の感触にカッと頬が熱くなる。
「な、内緒です…!」
男の行動についていけずに、しかし動揺を悟られたくなくて咄嗟に言葉が出た。その間も聞いているのか、口に含んだ指に舌を這わせては指を吸い上げる。まるで蜜を吸うように。
「ん…!」
堪らず漏れた声に、男が視線を寄越すとようやく指先が解放された。瞳に色が宿って見えて妙は背筋が震えた。
「ふーん。じゃぁ、口止め料もらうわ」
顔に影がかかったかと思うと背中に腕を回されて強く抱き寄せられた。体重を掛けられて、口を塞ぐ男の唇を受け止めるのが精一杯だった。
(どうしてこうなったのかしら…)
頭を一瞬過るも、潜り込んで来た男の舌に思考ごと絡め取られてしまう。濡れた指先が熱くじんじん響いて、隠すように男の服を握りしめて口付けの嵐に飲み込まれて行った。
終
以前ツイにて盛り上がったフォロワー様の絵をお話にしました^^ありがとう!
2014.12.21