彷徨う足はここを目指して
「お帰りなさい」
突然止んだ雨、聞こえた声に目を開けた。負傷した上びしょ濡れになった身体は重く、首さえも上手く動かせなかった。志村邸近くの塀にもたれるように座り込んだ俺を見つけたのは妙だった。
「こんな処に居たのね。いつまでも若くないんですからね」
止んだ雨は妙お気に入りの傘のお陰か。
妙が手にしていたタオルを頭の上からかけられて、乱暴に拭われる。傘に落ちる大量の雨粒の音が二人を包み込む。
「…よく気付いたな」
聞こえるか聞こえないかの声で呟く。聞こえなければそれで良かった。
「虫の報せがして」
こんな時まで可愛くない。けれど自分を見つけた時、妙が少し笑んだ気がして。
「馬鹿ね」
頭を拭く手にどんどん力がなくなっていく。
ばか、ばか。
タオルで視界は遮られ妙の顔は見えなかった。吐き出される女の泣き声。
あのまま死んでもいいと壁に凭れていたのに、いや本当は見つけて欲しくて気付けばここに居た。
「泣くな」
力なく出た言葉も、今の自分では伝わりそうになかった。
銀時×妙への3つの恋のお題:
雨の中にただ佇んで
君が笑うと俺も嬉しいから
何故か泣きそうになった
2014.10.08
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