おとしもの







 雨音がやたらと響いて鼓膜に届く。ほんの少し前まで交わしていた他愛もない会話が、途切れてしまったからだと、今更に気付く。そのきっかけを与えてしまった自覚はある。用意していた言葉でも何でもなかった。滑り落ちてしまった、という言い訳だけが頭の中をぐるぐると巡る。いくら考えても、もう過ぎた時は戻せない。

「今の、本気?」

 閉ざしていた女の口が、真偽を問うまあるい目が、膝の上で小さく握り拳をつくる手が、女のすべてが答えを待っている。滑り落ちてしまった言葉だったけれど、長らくの間取りこぼして来た言葉だった。ぐるぐると巡る頭の中に、それだけはずっと残ってこびりついて離れなかった。

「本気、出していい?」

 真正面に座る女の肩が僅かに跳ねる。今日だけは凶暴のなりを潜め、か弱い小動物のようだった。取って食われるのも、取って食うのも、この女以外にありえない。

 静かに打ち続ける雨音は、まるで二人を隠すように暫く降り続いていた。




ツイのお題箱リクより



2017.02.07





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