「俺を使うといい。」



上から染み込むような声が降ってくる。唇が触れている頭が擽ったい。誰かの腕に躯の中にこんなにもすっぽりと収まったのはいつぶりだろうか。何だか酷く安心したのだ。



切って、破いて、
     捨ててしまって




「司、好きだよ。」



ぺったりと頬に張り付く胸に直接染み込ませるように告げる。とくりと高く速まった心臓を数えるように聞く。きゅうと逞しい胸板を包む腕に力を込め、もう1度言う。



「司、だいす」
「もうよい。」



遮るように張り付いた頬を無理矢理剥がしながら司が言った。肩を押されてされるがままに突き放される。急激に明るくなった視界の中で司にピントが合うとそれはそれは、今にも泣きそうな顔をしていた。



 告白して来たのは、司。ある日の部室で確か雨の日だった。ミーティングだけで終わった部活、帰り支度をする部員達の間を縫って俺はグラウンドに走り出る。止める司を振り切って、俺はただ雷門を潰すためにボールを蹴った。帰る部員達が横目で俺を睨む。気が済んだのは3時間も後のことだ。


「おかえり、」
「兵頭…」


部室に戻ると司が一人で座っていた。待っていたのか?と聞くと主将だからなと笑う。馬鹿だな、と呟く前にだんっとロッカーに叩きつけられて「俺を使え」と告白されたのだ、雷門を忘れるまで、と。思わず笑ってしまうくらい突然で真っ直ぐで芯から冷えたはずの身体がじんと熱くなる。でもその時の俺はただただ雷門が憎くて、直ぐにその熱を逃がした。丁度良い、少し疲れていた、縋りたかった。
司を月山を利用した。


 雷門に勝って捨て去るはずが雷門に負けて、認めて、認められた。ずっと波打っていた怒りは無くなり月山の皆にも見違えるほど丸くなったと言われたほどだ。雷門もいつでも迎えると言ってくれた。それでも俺はここに残った。司に収まることを選んだ。なのに鈍感な司は早く帰れと言う。雷門戦は司にとって俺を勝ち取る試合だったらしい、負けた自分を責めてはよく唇を噛み締めている。俺が司のせいで雷門に帰れないと思いこんで、背中を押そうとするくせに時々司から繋がれる手は優しくて焦れったい。


 お前は俺が好きなんじゃなかったのか?お前は俺が居なくなってもいいのか?包み込まれる温かさがいつの間にか手放せなくなっていた。雷門には無い、此処以外どこにも居ない兵頭司。俺の好きな人。


 司から好きと言われたのは告白の時だけだ。幾度か言わせようと足掻いたこともあったけど司の唇がそう象ることはなかった。代わりに行動で示す奴だと思いたかった。我慢してるなんて思いたくなかった。シーソーのように俺が嵌ったら司は、なんて想像したくなかった。司、俺はもうずっと地上近くでお前を待ってる。もし俺たちの関係がシーソーなら早く俺を舞い上がらせてほしい。諦めの悪い俺はそのまま司の所まで飛んで行くから。


「何を考えている。」
「司のこと、」
「偽るのは良くないぞ。」


嘘なんかついてねえよ、馬鹿。再び司の胸に擦りよる。温かくて少し、速い。背中を包む腕が頼りなくて強くしがみつくとやっとらしく抱き締めてくれる。司ちゃんと好きなんだよ。だけどもう口には出せない。俺の気持ちを否定されることに慣れたくなかった。一々傷つきたかった。それが俺に出来る司への罪滅ぼし。雷門を倒すために月山国光を利用した俺への罰。


 背筋を伸ばして司を見る。いつもの凛々しい顔はどうした、泣きそうじゃないか。俺といると司はいつも泣きそうだ。俺も泣きそうだよ。
幾ら好きだと告げても司は俺を信用しない。それは、雷門に負けたから。司は俺を酷くお人好しだと勘違いしている。雷門と俺のやり取りを見ていたから。


 司、いっそ泣いてほしいよ。
泣いて縋って欲しい、離れないでくれと抱き締めてほしい。俺は離れやしないから。
胸に司の頭を抱き締める。きつくきつく力いっぱい抱き締める。それで司は何を思うだろうか、何が伝わるだろうか。そうだな、司を抱き締めるこの身体の核が酷く速いことに気付いて欲しい、こんな俺でもちゃんと緊張してるんだ。司と、一緒。


「司、好き…!」


結局これ以外の言葉なんて思い浮かばなくて、きゅうと強く握られたユニフォーム、歪んだ10の文字を背負う俺。司の唇は今日あの二文字を象る前に俺に喰らいついた。あぁ、泣きそうだ。泣きそうなのに幸せだよ、愛されている。何かの障壁がある訳でもってないんだから早く気づけ、馬鹿。意地も思い込みも遠慮も全部、切って、破いて、捨ててしまって。




∴≒#*$∵


すけちゃんが兵南にハマった記念!続きのえきべんセクロスはすけちゃんよろしく!天京も待ってる!


20111203(!)とこは