※京南京
※妄想激しいです!
※南沢さんネタバレ有りです




「居心地はいいか?」



いつだったかどこかで聞いたような声は多分、こちらに向けられているようなので振り返る。地平線に潜ろうとしている夕日を背景に顔の見えない男が足っていた。さらさらと揺れ乱れる髪をかき上げて、はっと鼻で笑った。



「さぞ、いいだろうな。」



綺麗な声だ、と思う。浮いているくせに路線を外さず走ってくるような、高い声も低い声も迷うことなく引っ張り出せそうな、そんな声だ。聞いたことがあった。



「南沢先輩、でしたっけ?」
「へえ、覚えてくれてたんだ。」



こくん、と小首を傾げる。一々動作の多い人だ。その動きに合わせた視線と声もまた抜かりないように思える。何百通りもある選択肢から1番相手を擽るものを選び出す判断力と実行力。流石は、実力で雷門エースストライカーの座を奪っただけはある。何たって監督があの久遠道也なのだ。内申点目当てだけの努力では到底届かない。
それでも彼は、辞めてしまった。
今は俺の背中に乗る10と言う番号を置き去りにして。なあ、剣城。今度は逆の方向に首を傾げながら問うてくる。
今の10番は楽しいか、と。



「楽しいとかそんなんじゃねえよ。」
「でも、苦しくないだろ?」



ふと、上からの挑発的な色を消して肩をすくめながら笑った。
何だって言うんだ。あんたは苦しみながらサッカーをやっていたのか。あんたはそれでもエースストライカーを奪ったのか。
今、自分がどんな顔をしているのかはわからない。けれどそれを見た先輩はため息をついてやれやれと首を振った。そして顔を上げた勢いのまま視線が絡む。きっ、と睨むようなその表情は一瞬で後はただ、諦めたような重力に負けたような笑い方をした。



「お前も変わっちゃったんだな。」



少し、歩くか。そう弱く笑いかけて横に並ぶ。俺の肩くらいまでしかない身長にどきりとした。雷門に派遣が決まった時俺が何より興味を持ったのはエースストライカーと言うポジションだ。研究だと言い張って見たあの時のビデオに映る彼は、あの場所に居座っていた彼はこんなに小さかっただろうか、と過去を思い出そうとしてハッとする。
苦しみながらサッカーをやっていたのは俺もじゃないか、と体の中心を突き刺すような何かに襲われた。 


オレンジと濃紺のグラデーションを追いかけるように歩いた。追いつく気は無い。否、この人を引っ張って走れると言うのなら俺はそうしたかもしれない。あぁ、俺はこの人に戻ってきて欲しいのかと思って首を振った。今やこの人の有無では雷門イレブンは変わらない。それがわかっているからこの人は今こんな服を着ているのだ。



「似合ってねぇな。」
「ばーか、今時のインテリイケメンはブレザー、ネクタイ、眼鏡なの。」
「学ランのがイケメンに見えた。」
「そんな服着てる奴に言われた時点で昔の俺はダサかったんだな。」
「ユニフォームはもっと似合ってた。」



ぴくりと揺れた体を見下ろす。小さい、な、やっぱり。



「お前のほうが似合ってるさ」
「そりゃ、どうも」



彼は知らないだろうが、実際に今俺が着ているユニフォームは違う物だ。彼のではなく新しく注文し直した物だ。1つは倉間先輩が駄々をこねた、もう1つは今日改めて実感したけれど、入らない。
それでも俺は雷門の10番なんだ。



「別に、サッカーが好きでサッカー部に入ったわけじゃないんだ。」



ぽつりと滲み出た台詞を皮切りに俺は歩みを止める。座ろうぜ、遅れて止まった先輩の袖を引っ張って、奥まった公園のベンチに誘った。



「雷門中がバスケの名門なら俺は今ごろバスケ部のキャプテンだった。」



少し苦笑まじりのドヤ顔に向かって缶ジュースを投げる。結構なスピードだったにも関わらず軽々とキャッチした辺り、バスケ部キャプテン説もなかなか信憑性があるかもしれない。隣に腰掛けながら言う。



「それでも雷門はサッカー部の名門だった。いや、サッカー部の名門だから雷門だった。」



はは、当たり。なんて渇いた笑いを潤すかのようにプシュ、と缶ジュースの開く音、ごくごくごくと喉と声を潤してから、にかっと笑う。上手いよ、ありがとう。だってさ似合わないね。



「お前もさ、豪炎寺さんに憧れただろ。」
「あぁ、すっごい好きだったよ。」
「ユニフォームもさ襟立てちゃって、あんだけ偉そうに雷門潰すとか言ってた癖に可愛い奴だよ。」「あんたも好きだったんだ。」
「でも俺は襟を立てられなかった。」
「そりゃ、な。結構勇気いるよな、これ。」
「はははは、ゴーグルとマントよりマシだろ。って、そう言う意味じゃねえよ。……俺は、豪炎寺さんみたいになりたかった。雷門で10番取ったら絶対襟立てるつもりだった。でも出来なかったんだ。」



先輩はごくごくごく、とまた甘ったるいジュースを飲み込んでいく。わかるような、少し違うような、おこがましいような、そんな焦れったい感覚を流し込むために、俺もジュースを飲んだ。湿った唇でふうと息を吐き今度はそこから声を出した。



「雷門がよかったんだ。雷門に入って10番取って、豪炎寺さんみたいになりたかった。そのためにはどんな努力もした。豪炎寺さんが勤勉な人だったから勉強も頑張った。憧れてた。剣城、お前ファイヤートルネード打てるか?」
「いや、それはさすがに無理だ。」
「俺は打てるよ。すっごい練習した。サッカーを始めて1番最初に練習技だったんだ。」



思わず、ぽかんと口を開けてしまった。ファイヤートルネード?あんな高度な技を?そんな俺を見て先輩がしてやったりと笑う。雷門のエースストライカー舐めんな。そう言われて素直に頷いてしまうほどだった。それからも先輩は語り続ける。俺達の知らない雷門を。



当時はシュウジ様が聖帝になったばかりだったから圧力も弱い方で、俺達1年は何も知らなくても疑わないほどだった。俺は極々普通のお気楽な奴だったさ。元々運動神経は良かったのとファイヤートルネードを習得出来たのが効いて、1年の時から時々だけど、ミットフィルダーだったけど試合に出して貰えたりもしてた。努力したし、楽しかった。先輩から当たられた事もあったけど俺はそれでも10番を奪い取った。だけど、俺が2年に上がった時、チームのみんなが辞めてったんだ。理由はわかるだろ、今まで自分達が必死こいて応援してた先輩達の試合が全てフィフスセクターに管理されていたものだと知ったから。いろんな奴らがサッカーを捨てたけれど俺には10番を捨てることなんて出来なかった。悔しかった。あんなに頑張って掴んだ10番をあっと言う間に軽い物にされた気がした。結局残ったのは少数の2年と何も知らない1年達。俺達は思った、何で先輩達は最初から教えてくれなかったんだって。知ってればこんな辛い思いをしなくてもよかった。先輩に当たられる事を黙って受け止めずにすんだ。俺はサッカーしてるつもりだった、それが無知で出鱈目な独りよがりだと思い知らせた。俺達は同じ過ちを繰り返さないために1年に全てを告げ、その上で残った奴らとサッカーを続けた。段々とフィフスセクターは縛るようになってきて、挙げ句には点数まで指示しだした。何かさ、ある日急にアホらしくなっちゃってさ。あとは、お前も知ってる通りさ。松風達を見てたら、昔の自分見てるようでムカついて、でもその気持ちも真実を知った気持ちもわかるからなんかもう疲れちゃって。」



先輩の話は引っ張っても引っ張っても終わりが見えない糸のように思えた。その糸を俺達は切ろうとしているのに、先輩はそれを願っているはずなのに、諦めたような笑顔にこそ終わりが見えない。
シュウジ様、口の中に湧き上がり、舌で転がし、ジュースと共に飲み干す。一言で言うと素晴らしく美しい人だ。見た目だけじゃない、信念や生き方も、きっとサッカーも。人を集める何かを持った美しい人なんだ。



「先輩はサッカー好きなんだろ」
「うん、だいすき」



ふわりと空気が浮くような笑顔で先輩が笑う。こんな顔も出来たのか、宙に浮く花が見えそうで少し擽ったい。
この人のをこと好きな奴がいる。あいつは、ずっと隣を走っていたあいつはこの笑顔を見たことがあるのだろうか。



「雷門の10番は俺の宝物だった。」



今だってそこに居たことが誇らしい。
そう言って空を見上げるこの人を見たら、きっとあいつは、倉間は泣いてしまうんじゃないだろうか。



「豪炎寺さんの立っていた場所に俺は立っていたんだ。今は、お前が立ってる。」
「取り返しに来れば、いいだろう。」
「もう、遅いさ。雷門は走り出してしまった。俺は降りた。そして俺も走り出したんだ。」



そうだ、雷門は走り出した。無理矢理アクセルを踏んだ同級生が居た。ブレーキを壊した監督まで出てきてしまった。乗っている奴らの覚悟も固い。それでも追いかけてきて飛び乗って来た奴らもいるんだ。決して遅くなどない。ましてやこの人なら雷門が迎えに行く。



遙か上に伸びる空が遂にオレンジ色を飲み込んでしまった。俺はきっと、この人を引っ張って走れるのなら走った。走ったんだ。



「今の10番は楽しいよ。」
「そう、か。」
「でも10番は一人だけだ。」
「それが、お前だ。」
「俺はそれがあんたでもいいと思う」
「昔の話だ。」



これからの話だよ。そう心中で返す。声にする前にこの人の立ち位置がそれを止めていた。



雷門の10番には興味があった。10番を背負えて確かに嬉しい。でも先輩は言った。実力で取った10番を軽い物にされたみたいで悔しかったって。そんな風に言われてしまえば俺の10番だって実力じゃない。代わりの10番なんて嫌だ。俺だって悔しい。



「俺も10番を取りたい。」
「もう、持ってるだろ。」
「あんたから奪いたい。」
「わがままだな、」



はははと笑う。困ったような、でも可笑しいような、綺麗な笑顔だった。



「だが、それは出来ない。」



すっと、立ち上がり空き缶を投げる。綺麗なピッチャーのフォームだった。先輩自信の声のように目的地に入る。吃驚した俺を見てにっと笑った。 


「俺、元ピッチャーなの。」
「ははは、すげ、」
「ショートも出来る。」
「いや、それまじですげぇ」
「でも、俺はサッカーが好き。」



立ち上がり、髪をかきあげる。いつもの先輩の仕草だった。うざかったあの仕草が今や見たく無いほど切ない。



「お前のことも、嫌い。」
「………おい、」
「だからお前は、ずっと俺のお下がり10番来てればいいんだよ、ざまーみろ。」



はん、と鼻で笑う先輩に舌打ちする。素直なんだか違うんだか、全く隠すのが上手くて腹が立つ。さっきまでの萎れた大人しい先輩はどこに行ったのかねえ。



「転校のこと、倉間は知ってるのか」
「それは知らねえよ、ただ俺はフィフスセクターから聞いた。」
「へぇ、裏切り者のお前にまだ情報流してくれる奴が居たってわけ?じゃあそいつも裏切り者だな。」
「仲間、だ。」



ヒュウ、口笛が聞こえた。酷く馬鹿にされた気がした。本当に抜かりなく容赦なく自分の全てを操作する人だ。



「仲間だろうと友達だろうと裏切り者をシュウジ様は許さない。」
「やっぱり、フィフスセクターに」
「お前の代わりだよ。」
「……え?」
「てのは、冗談。でもフィフスセクターはほんと」



あー、と空気を食べるように伸びをする、夕日に煌めいていた赤紫の髪が夜風に吹かれて持ち主を際だたせる。あぁ、切なく胸を打つ夕日にも飛びたくなるような夜空にもこの髪はこの人は負けない。そろそろ行ってしまうのか。
聞こえたかどうかは知らない、でも俺ははっきりと舌打ちをした。言えない俺からの確かな拒絶だった。



「今の雷門は楽しいだろ。今のフィフスセクターも楽しいぜ。人はやっぱり本来の場所で輝くべきなのさ。」
「フィフスセクターのサッカーが嫌いなんじゃなかったのか。」
「フィフスセクターのサッカーって何だ?雷門のサッカーって何だ?サッカーはサッカーだろ。」
「お前それでいいのか、雷門の10番より、豪炎寺さんより取った場所がフィフスセクターなのか。」



半ば諦めはついていた。魅せられてはしまったのだ、あの場所にあの人に。雷門を抜けた彼にとってフィフスセクターほど居心地のいい所はない。
もし俺達が人生を走っているのだとするなら、俺と先輩との道はスタートとゴールが逆だった。そして今、すれ違う所に居る。俺がこの人の手を掴める最後のチャンスだ。 



「馬鹿言うなよ。俺は何も捨てちゃいない。10番もサッカーもそして豪炎寺さんもな。」



伸ばしかけた手を、叩き落とすように先輩は笑う。手は落ちずに固まった。



「は?何言ってんだ。」
「俺は最近爆熱ストームも打てるようになったんだ。何でだと思う?」



夜風にも夕日にも負けない彼が、いつか振り向いて戻ってきてくれるだろうか。立ち上がり、向き合う。やはり見下ろす形になったけれど俺は酷く見上げている気持ちになった。空より大きく見えた。降るように声が聞こえる。



「全国大会楽しみにしてる。」



雷門は走り出した。
でも俺も走り出したんだ。
サッカー好きだよ。大好きだ。
いつだって追いかけてた10番をお前は背負った。
でも俺は、手に入れたんだ。
あの人も俺を手に入れた。



そう、聞こえた。
なぁ、あんたのユニフォームは、まだあるんだ。雷門はあんたを迎えにだって行く、なのに。
気持ちはわかる。
これから先輩が走ってる道は俺が走ってきた道だ。
すれ違ってしまったらもう届かない。



背番号10
(それがあなたと僕の共通点だった)
(そう、思っていた)





∴≒#*$∵


長い!オチとキャラが行方不明はずかすぃ!!6時からGOだから!あと3分あるから!セーフ!
あと制服とか南沢さんがフィフスセクターとか妄想ばっかですいません!ほんとすいません!
でも豪炎寺さんに憧れる南沢さん可愛い、ファイヤートルネードや爆熱ストーム打てる南沢さん超可愛い!大好き!京ちゃんのデスドロップむちゃ好き!