「吹雪!もう大丈夫なのか?」
「吹雪ーっ!」
「吹雪、俺に任せろ。」
「吹雪くん。お待たせ。」
「よう、吹雪。どうした?」
「吹雪、好きだ。」
「僕、豪炎寺くんが、好き。」


loop.0006
吹雪、吹雪、士郎、





「吹雪!もう大丈夫なのか?」
「キャプテン、おはよう。」

「吹雪ーっ!」
「あ、おはよー!風丸くん。」


左右から吹雪を挟むように走ってきた、2人にふわりとした笑顔を返し、挟まれる。



「吹雪、もう大丈夫なのか?」
「………っぷ!はははははは」
「え?どうした?」
「かーぜーまーる!」
「風丸くん、キャプテンと全く同じこと言ってる。」
「え?普通聞くだろ?」
「そうだけどさ、なーんかな、」
「ね、おもしろいよね。」
「いや、もし俺が鬼道でもこうなってたって!っておい!笑いすぎだぞ!」
「あっははははは、あのね、僕さ、2人に挟まれるの大好きだよ。」



ほわんと花を散らした吹雪はただ素直に言っただけだろうけど言われた2人は肩を震わせて感動している。本当に親子みたいな3人を微笑ましく見ていると、突然円堂と風丸が同時に吹雪に飛びついた。不意打ちをくらった吹雪がよろめく、それを走っていって慌てて支えた。3人と目が合う。



「あ、おはよう。」



その日の吹雪のお相手は風丸だった。火曜日のことだ。




「じゃあ、吹雪頼んだぞ。」



渋々と吹雪が頷く。それを合図に周りが解散し始めた。1人残った吹雪はたくさんのサッカーボールが入った籠を引きずりだす。目的は体育倉庫、大分先だ。明らかに釣り合わないサイズを見かねた土方が駆け寄る。



「吹雪、俺に任せろ。」
「え?悪いよ!いいよ!」
「いいから、ほらよこせって」


ひょいと籠を持った土方の隣に寄り添うようにして着いていく。土方は吹雪の兄貴だな、と隣で鬼道が呟くのに静かに同意した。水曜日の吹雪の相手は土方だった。




「吹雪くん。お待たせ。」



昼休みなのに、珍しく1人で席に留まる吹雪を見かけた。獲物を狙うように何人かの女子が周りでそわそわしている。すると廊下側後ろから2番目の吹雪の席に隣設された窓が、不意に開いた。



「ヒロトくん。」
「待たせたね、ごめん。お詫びに何か奢るからさ食堂行かない?」
「そんなのいいよ。食堂だねオーケー、混んでないといいな。」
「それは薄い望みだね。本当に食堂でいいの?」
「かまわないよ。行こう。」 


ヒロトの手を引き吹雪が歩き出す。並んで歩く2人に周りの女子が感嘆の声を上げた。雷門のアイドルである2人はどちらかと言うと親友に近いイメージだ。吹雪の木曜日の相手はヒロトに決まった。




月曜日は無し、火曜が風丸、水曜が土方、木曜がヒロト、なら今日は俺か。
指を折りながら呟くと暫くしない内にその時は可愛い足音を立ててやって来る。



「染岡くん!!」
「よう、吹雪。どうした?」
「今日の放課後、暇?よかったらワイバーンブリザードの特訓しない?」



参観日のあった日曜日、吹雪が体調を崩したあの日以来、こいつはいろんな人に懐くように走り回っている。される側からしてみれば愛らしいことこの上無いが、怪しいことも否めない。そこで俺はこの行動の真の意味を見い出そうとし、結果案外早めに気がついた。吹雪は豪炎寺を避けている。と。



参観日の代休も部活生にとったらただの活動日に過ぎない。雷門中は月曜日だけ1時間多く授業を行うのでサッカー部では自主練の日になる。そこに現れた代休様々、監督はもちろんフル活用した訳だ。そこを利用して俺は吹雪に提案する。



「特訓もいいけどよ、今週は動きっぱなしだろ?よかったら買い物付き合ってくれねぇか?」


∴≒#*$∵



結局通常の練習の後吹雪を引っ張りスポーツ店でスパイクを見るのを付き合ってもらった。吹雪やヒロトみたいな軽さ重視じゃなくてもっとグリップの効くスパイクが欲しいと言うと吹雪は店員より詳しくあっという間に吹雪セレクトのスパイクが目の前に並ぶ。少し意外で問うてみると豪炎寺の受け入れだ、と苦く笑った。並んだ全てのスパイクを試し、その中でも衝撃吸収に長けた1つを選ぶ、吹雪が満足そうに笑う。



「ありがとうございました。」



深く頭を下げる定員に一礼して店を出たのは空がすっかりオレンジに染まった時だった。今日のお礼に奢った肉まんを片手に帰路に着く。



たわいもない話をしながら、自然と隣を歩く吹雪に言いようも無い愛おしさを感じた。
風丸と円堂が親子、土方が兄貴、ヒロトが親友なら俺と吹雪は一体どんな風に見えているのだろうか。
何も言わず隣を歩く吹雪がいつか当たり前になればいいのに、吹雪からの欲求になる日が来ればいいのに、と憧れては心臓の柔らかい部分を刺激する。 


吹雪の気持ちに気づいていないわけじゃない、ただ引き下がるには遅過ぎただけだ。
吹雪が隣を求める奴は他にいると知ったのは(否、認めたのは、かもしれない)先週の日曜日のことだ。



吹雪は本心を飲み込み塞ぐタイプでヒロトみたいな仲の良い友達は居ても誰かにへばりついたりとかはしない。そう言うスタンスで生きている奴だと、その一線を越えられるのは今は亡き敦也だけだと、俺はずっと思い込んでいた。
それでも吹雪が俺を求めたら全力で支える。それなりに信頼し合い、雷門の中で1番吹雪が頼り安い立場であると自負していたのだ。



待つだけだった俺を颯爽と抜かし吹雪の中に押し入ったのが豪炎寺。踏み込み(と言うより殴り込んだに近い)吹雪を引き上げ、熱い炎を分け与えた。世界が明るくなった瞬間吹雪はどんな熱い炎にも溶けない氷を手に入れた。
もの凄い荒業だったにも関わらず吹雪はそれを糧に立ち上がる。俺には手の届かないような酷く遠い液晶越しの出来事だった。多分その時が始まりだったのでは無いだろうか。2人は互いにチームメート以上へと足を伸ばした。



そんな2人が怒鳴り合っている。立ち竦むほど衝撃的だった。扉を開けようとする手が震える。開けば最後何かが終わり何かが始まる。世界が廻ってしまう、そう思った。



「触るな!」



豪炎寺の悲痛な叫び声は、そんな俺の背中を押した。俺は吹雪を待っていた、約束もしていなかった相手とずっと待ち合わせているつもりでいた。それはただの夢物語だったではないか。
豪炎寺の叫びは吹雪を怒らせると共に、確実に留まらせただろう。俺はまた待っているのか、こない相手をただひたすらと。
そんな夢、覚ましてしまえ。
声が聞こえる。手が震えた。
目を覚ませ起きろ、立ち上がり戦い、奪い取れ。
待つのではなく、迎えに行くのだ。
扉を開け放った。



「吹雪、好きだ。」
「え…!?」



見開き見上げてくる眸は不思議でたまらないと言いたげに揺れる。一度深呼吸をしてから、ゆっくりと告げた。



「だから、好きだ、吹雪。」
「いや、聞こえてたけど、その」
「冗談じゃねぇ、遊びでもねぇ、本気なんだよ。」