「豪炎寺くん!」 「届いてないぞ。」 「重心を前に、だね」 「俺に雷技教えてくれないか?」 「ふふふ、いいよ!乗った!」 「後ろに隠してる子、誰?」 loop.0002 世界が回り、僕が回り、 目が回って、あぁ君が見えない 「豪炎寺くん!」 パタパタと駈けてくる足音に自然と頬が弛む。当たり前に隣に並んでくる吹雪を見て、すとんと何かが落ち着くのを感じた。 「おはよう!」 「おはよう、吹雪」 雷門中までの道のりを2人で歩きながら、いつになくそわそわしている吹雪に昨日の勘が当たったことを確信した。 「豪炎寺くん」 「なんだ?」 「今日さ、部活終わったら一緒に」 「クロスファイアの練習するか?」 「そう!何でわかったの!?」 「いや、そろそろ来るころだなって思ってたんだよ。」 「え!?僕そんなに定期的かな!?」 両腕で頬を挟む行為が可愛くてくしゃりと頭を撫でてやると心なしか顔が赤い吹雪が笑う。温かいやつだと思う。直ぐに手を離してしまったけれど、いつも願望で終わるけれど、吹雪はきっとどこを触っても温かくて柔らかいだろうからもっと触れてみたいと、伸びかけた手を今までに何度引っ込めたことか。 ずっと買い続けている漫画が、ふと脳内に浮かんで、そろそろ新刊が出るなとコンビニに寄ったら既に並んでいたりする。別に日数を数えていた訳ではなく、前の発売日すら覚えていないのに、まるで出たよと漫画に呼ばれるようにふと浮かぶ。吹雪はそれに似ている。ふと頭に浮かぶといつも吹雪の方から走ってきてくれる。呼ばなくても振り向けば吹雪は笑ってそこに居てくれる。こうして隣を歩いてくれる。温かいやつだよ、お前は。 温かくて、とても綺麗だ。 教室前で吹雪は俺に手を振った。また後でと告げて一歩踏み出せばもう違う奴に話しかけられている。あぁ、もう1度話しかけたい衝動がその根拠の無さに負けてするすると引っ込んだ。 「おはよう、」 「あぁ、おはよう。」 何度かそんなやり取りをして、席に着く。HRではボランティアの募集だの、今度の日曜日は参観日だの、今日の昼に体育委員会があるだの、といつも通りのお知らせばかりで俺は特に何にも興味が沸かずにそのまま1日に溶け込んで行った。 ∴≒#*$∵ 「「クロスファイア!!」」 ゴールのネットを突き破るような勢いに満足し2人して頷く。すごいじゃないか2人とも!と遠くでキャプテンの励ましも聞こえた。それでも、まだまだ足りない!もっと強くなりたい!クロスファイアだってもっと威力を上げたい!重心をもう少し軸足にかけてもっとフリーな足で蹴り込みたい。僕も豪炎寺くんも回転力には自信があるから2人の力でもっともっと強くボールを叩き出すことはできないだろうか。 「よし吹雪もう一回だ。」 「うん!」 「次はもう少し早く蹴り込むぞ」 「重心を前に、だね」 「……あぁ!それから」 「回転力、でしょ。」 ははっその通りだ!と爽やかな笑顔に疲れなんて吹っ飛ばされた。豪炎寺くんはよく頭を撫でてくれるから実はいつも今か今かと待っていたりして、だからくしゃりとかき混ぜられる時のほどよい力加減が心地良い。 「何をやっている、吹雪」 「返してあげられないかなって」 「届いてないぞ。」 「でかすぎるよ君。」 すんと拗ねる僕に撫でるふりをしてデコピンをかまして笑う。ほら、やるぞ。だってさ、ちょっと期待しちゃったじゃないか。バカ。 結局サッカー部どころか学校中のみんなが帰るまでクロスファイアを進化させ続けた(最高の出来だけれどまだ上はあると思う)くたくたの体を引き摺ってそれでもサッカーの話をしながら並んで歩く。サッカーの話をしている時の豪炎寺くんって、ベタな言葉しか言えないけど輝いてるよね。雷門中サッカー部は有名だし、そこのエースストライカーなんだから豪炎寺くんのことを知っている人は全国でたくさんいる。けれど普段クールな彼のこんな熱い想いを覗いたことがある人ってすっごく少ないはずだ。僕は、その1人になれて本当に嬉しい。願わくば、もっと特別な1人になりたい、だなんて。君に告げる勇気はこれっぽっちもないけれど。 そろそろ新必殺技でも考えようか、と2人で語り合いながら帰宅する。豪炎寺くんが僕の狼みたいに動物を出したいとか言い出したから君なんか麒麟っぽいよ、でかいしって言ったら、頭を叩かれた。 「まだ根に持っていたのか。」 「格好良いじゃないか、麒麟」 「そういう問題じゃない。」 「麒麟ってもう1つあるよね」 「伝説の方のか? 「そう!それでいいじゃん」 「お前めんどくさがってるだろ」 「ううん、そんなことないさ」 本当に、麒麟似合うと思うんだ。豪炎寺くんが、新必殺技を持ちかけてくれた、僕みたいに動物を出したいって言ってくれた。それだけで単純な僕の気持ちはるんるんなんだよ。ただでさえ跳ね出しそうなのに隠すのに必死なんだ。 「吹雪は土方とサンダービースト出来るよな。」 「うん、出来るよ。」 「俺に雷技教えてくれないか?」 「え?もしかして麒麟するの!?」 「あぁ、そのかわりお前もやれよ。」 「麒麟を?本当に?」 「ああ!やるだろ?吹雪!」 「ふふふ、いいよ!乗った!」 豪炎寺くんとの新必殺技が本格的になってきて凄く嬉しい。どんなのにしようかな!それは豪炎寺くんと相談、だよね。どんなゴールキーパーでもキャプテンでも止められない破壊力のある技にしたいなあ!またいっぱい頑張らなきゃだ。だけど、豪炎寺くんが一緒なら僕はいつまでだって頑張れる!もれなく下心もついて来るけど、ね。 それからは、新しい必殺技の組み立てを熱心に語り、散々盛り上がった。ずくずくと疼く体を何とか冷ましながらスーパーの前に通りかかる。僕が丁度着地はどうする?って聞いた時だった。 「しゅうちゃん?」 ぴくりと隣で肩が震えた。ほんの一瞬だったから、多分気付いたのは僕だけ。歩みを止めた豪炎寺くんが一拍置いてゆっくりと息を吐く。急に止まった彼に付いていけなくて少し先で僕も止まった。 何かがおかしい。 どうして、目を瞑るのかな? どうして、俯いたままなの? どうして、僕を見ようとしないの? 「ごうえ「吹雪」」 声を遮って名前を呼ばれた。はい!と返事したくなるようなそんな呼び方だった。ゆっくりと上げられた顔から暗い夜でも別段と輝く漆黒の瞳を見つける。ブラックホールのようなそれに吸い付かれたかのように視線が外せない。静かに声を出さずに豪炎寺くんは口だけで言った。 喋るな。 すたすた機械的に近づいてきた豪炎寺くんは僕の腕を引っ張り抱き寄せる。え?え?パニックに陥りそうな僕に背中を向けて、やっと彼は振り向いた。呼びかけた声から僕はきっと完全に隠されている。腕はまだ強い力で握られたままだ。 「やっぱり、しゅうちゃんだ。」 あ、しゅうちゃんって豪炎寺くんの事だったんだ。全く関係ないと思って流した音が、まさか彼をこんな風にしてしまうとは。え?これ、なに? 「こんばんわ」 「こんな時間まで何してたの?」 「サッカーです。」 「ふーん。」 確信のある声の女の人と、淡々とした対応の彼。全く知らないRPGの世界に迷い込んだみたいに、何もわからないまま喋ることも動くことも許されず、ただ話の流れの中にいる。しゅうちゃん。頭の中でスーパーボールのように跳ねまくる声。しゅうちゃん?こんばんわ? 違う、ここはRPGなんかじゃない。ここは、僕が引きずり込まれたここは、豪炎寺くんと彼女の世界、だ。 「ねぇ、しゅうちゃん。」 「後ろに隠してる子、誰?」 ∴≒#*$∵ 豪(→)←吹雪の回です。人妻ちゃんは露骨な雌豹野郎です。 豪吹はもう夫婦ですよね、あうんですよね。 20110915(!)とこは → |