※同棲中の大学生豪吹



『今日も大学に泊まる。』
『そっか発表近いもんね。頑張れ。』
『あぁ、すまない。』
『気にしないで。寂しいけど。』
『………悪い。』
『はははわかってるってば。
 じゃあ、またね。』
『あぁ、また。』



プツンと回線が切れてもなかなか携帯を閉じることが出来なかった。何となく口元を覆いたくなるような漠然とした、やってしまった感。自分達がまだ幼くてそれが故に会えなかった日々のことを思い出す。
あの時の吹雪も、こう言った。



『明日も朝練だからもう寝ないと。』
『そっか、みんな毎日頑張ってるんだね。僕も負けてられないな!豪炎寺くんも頑張ってね。今度会う時はもっと凄いクロスファイア打とうね!』
『あぁ、もちろんだ。』
『じゃあ、また。』
『……またな。』



あの後、糸が切れるように君の声が電子音に呑まれて、なんだか凄く寂しく感じちゃった。と数年後に同棲を始めた時に吹雪は言った。『またね。』と『またな。』が、毎日毎日。あの時の吹雪も途切れた声がまだ繋がっていたらと諦めきれなくてなかなか携帯を閉じれなかったりしたのだろうか。



『「またね」は次があるけど、それでも本質は別れを告げる言葉だったんだよ。痛感しちゃった。』とも吹雪は言った。
北海道と東京は本当に遠かったのだ。



ついに本格的に口元を手で覆ってしまった。
あぁ、確かにあの頃は北海道と東京で本当に本当に遠かったよ。
でも、今は違うじゃないか。
慌てて大学を飛び出す。電車もタクシーも焦れったくて、ただひたすら走った。




∴≒#*$∵




切羽詰まって開けたはずの扉がその先に吹雪がいると思うだけでスローモーションに見えて焦れったい。頭がワンシーンワンシーンをくっきりはっきり記憶していく感覚にやけに冷静な自分が心のどこかで苦笑する。どれだけ、会いたいんだ。と。



「士郎!!!」
「うえ?!し、ごっ豪炎寺くっ…!」



開いた扉のドストレート一直線上、俺の歩幅2歩分先にいた士郎は心底驚いた顔をしていた。(数十分前に今日は帰らないと告げたばかりだから当たり前なのだが)俺はその2歩分を1歩で埋め士郎に飛びつく。



「ただいま!」
いつもは胸元に収まる士郎だが、今日は俺が収まりたい気分だった。と言っても体格差は埋めれないし体を交換することも出来ないので、せめてもと士郎の肩にぐりぐりと顔を押し付ける。ふわふわと頬を掠る癖っ毛や首元から香る士郎の匂いに、腹の底から湧き上がるような幸せを感じた。噴水のように上に飛び跳ねそうになりながらも幸せによって生まれた有り余った力は余すことなく抱き締めるために使う。



「しっ…豪炎寺くん。どうかしたの?今日も大学に泊まる予定だったんじゃないの?」



恐る恐る吹雪が聞いてくる。よっぽど慌てて見えたのだろうか、俺が士郎を落ち着かせる時と同じように頭をぽんぽんと撫でてきた。内心混乱しているであろう士郎を余所に、俺は軽い重力に従ってその分だけ肩に頭を沈めた。
「さっき電話して、」
「うん。」
「会いたくなって、」
「僕もだよ。」
「中学の時思い出して、さ」
「うん。」
「あの時はどんなに会いたくても、会えなかった。北海道と東京は俺達だけじゃどうにか出来る距離じゃなかったんだ。」
「わかってるよ。だからずっと辛かった。」
「俺も。ずっと会いたくてたまらなかった。声を聞きたくて仕方なくて、士郎不足で死にそうで、少しでも関わりたくて電話してたのに、声を聞いたらもっと死にそうになってた。毎日電話を切る時が嫌だったよ。さよならにしたくなくて必死に「またね」に甘えた。俺の知り得ない時間を生きる士郎がどれだけ欲しかったか、今でも思い出せるくらいだ。いつも「またな」の後、次の「もしもし」までに士郎が居なくなってたらどうしよう。って考えると本当に怖くて、明日1日士郎が無事に過ごせますようにって毎日願ってた。あの頃の、あの頃の俺は本当に士郎が好きだったんだ。」
「豪炎寺くん、ううん。修也」
「でも、今は俺が走れば会える距離にいる。なのに、どうして俺はそうしないんだ?って、そう思えば走らない理由がどこにもなかった。だって今の俺も本当に士郎が、好きだから。」
「………っ修也!」



きゅううううと細い腕を食い込ませるように抱き返されて体以上に胸が締め付けられる。湧き上がる喜びとか感動とか愛おしさとか何もかもを士郎にぶつけたくてたまらない。



「修也、ありがとう。」
「俺だって感謝してる。ずっと傍にいてくれてありがとう。それからここずっと一緒に住んでることに慣れてあまり相手してやれなくて、ごめん。」
「ううん。いいんだ。僕今最高に幸せだから!」



ぐりぐりと胸に押し付けられる士郎の額、そこから絞り出される声、士郎の全てが愛おしい。



「修也、大好き。」
「士郎、俺もだ。」
「しゅ…っむう」



士郎の腰辺りを支えて無理矢理90度回転すると壁にドンっと押し付けた。それから何の遠慮もなくくちづける。士郎士郎士郎士郎士郎士郎士郎士郎士郎士郎士郎頭の中が士郎に染められていく。
もう士郎のことしか考えられない。愛おしい、嬉しい、幸せ、全て士郎が教えてくれた感情だ。俺の性格上、中々口にできないけどちゃんといつも愛している。言わない分は行動で表そうと暖かい口内へ舌を伸ばした。



「……ごう…え…じく、ん」
「吹雪…、……士郎、なぁ、士郎…」



中学時代があったから、今の俺達がある。だからそのころを思い出される苗字呼びはこのタイミングでは非常に美味しいのだが、それ以上に、俺達が愛し合っているのは、今、なんだ。



「な、に……?」
「…士郎……な、まえ。…名前、で……呼んで……くれ。」
「…しゅうっ……修也…」



辛いだろうに一生懸命に答えてくれる士郎が心の底から愛おしい。満足して士郎を固定していた腕をとん、と壁に肘から先を預けもう片方を頬に沿える。士郎の両手はぎゅうと脇をくぐって俺を抱いており、もう、離れない。
俺達を止めるものは何もない。
頬に沿えていた手を士郎の服に忍ばせた。



「士郎、」
「修也ぁ」




「そこまでだ。」
「………………え?」



聞き覚えのある声にぴたりと手が止まった。続いて唇を離すとうっとりした顔の士郎と目が合う。今は士郎の顔以外見たくない。いろんな意味で。
しかし縋るように見つめ続けたその顔がみるみると青ざめていった。



「しっ……吹雪?」
「わ………忘れ、てた」
「そのようだな。」
「きっ……鬼道!?」
「久しぶりだな、しゅうやくん?」


あぁ、どうやら少し前の俺は本当に士郎しか見えてなかったらしい。



「豪炎寺くん、実は……」
「俺もいるぜ!」
「円堂!?」
「すまない!豪炎寺!」
「風丸!?」
「たくっ真っ昼間からお熱いこって」
「不動……」
「その、まぁ、いいんじゃねぇの?」
「染岡まで……」



あっははははは、泣きたい。



「ごめんね、豪炎寺くん。君が今日帰ってこれないって聞いて寂しくてさ、急遽声かけたらみんな集まってくれたんだ。って言うかみんなにこそ謝らなきゃだね。………本当、ごめん。」



愛し合うのも結構ですが、
(周り見て下さい!)




あああああああ穴はどこでしょうか。
穴ならこ、黙れ吹雪!



∴≒#*$∵


周り公認ばかっぽー豪吹が1番すきです!多分豪吹にはまって1番最初に書き始めた話だと思われ。


20110903(!)とこは