短篇 | ナノ

サッチ


「可愛い」

「あ、ありがと・・・ございます」

「じゃ、行こっか?」

「ハイ。あ、サッチさん」

「ん?」

「サッチさんも・・・その、か、カッコいいです!」

「ありがと。ほら」


照れながら俯いた彼女の手を取り、境内を歩き出す


「○○○ちゃん?」

「・・・あ、ハイ?」

「コレ、やる?」

「良いんですか?」

「うん。やりたいなら云ってくれれば良いのに」


○○○がジッと金魚すくいの屋台を見つめているのに気付き、立ち止まる


「すみません」

「謝らなくても良いよ。じゃ、やろっか」


屋台のオヤジに声を掛け、ポイを受け取る


「・・・・・・」

「○○○ちゃん?」

「・・・今、話し掛けないで下さい」

「アハハ・・・ゴメン」


ポイを持ち、真剣に出目金を狙っている○○○


「(真剣になっちゃって、可愛いねぇ・・・)」

「ムムム・・・・・・今だッ!!


ポチャッ


「うわぁあああッ」

「残念、だったね?」

「もう1回ッ!」

「えぇ?」

「ね、良いでしょ?1回だけッ」


顔の前で両手を合わせ、おねだりをしている姿はサッチには毒でしかない


「1回だけだよ?」

「ハイッ」

「(あの出目金が欲しいのか・・・)」


やはり無言で、ポイを構えながら見つめている


「・・・あぁッ!!」

「惜しかったね?」

「うぅ・・・」

「俺もやってみようかな?」


どれが欲しいの?と聞けば、やはりあの出目金を指差した


「頑張って下さいッ」

「うん」


水面に浮かんで来るのを見計らい、ポイを差し込む


「獲れたッ!!・・・あぁあああッ!!

「そ、そんなぁ・・・」


あとは器に入れるだけ、だったのに無情にもポイが破れてしまい、水槽に戻って行く出目金


「結局、4回でGETしちゃいましたね・・・」

「そうだね」


恨めしそうに出目金を眺めている○○○を見兼ねて、出店のオヤジがサービスであの出目金をくれた


「サッチさん、ありがとうございました」

「いや、俺、結果獲れてないし・・・」

「でも、この子を狙ってる時の真剣な目、カッコ良かったですよ」

「そ、そうかい?へへへ」


○○○は嬉しそうに袋の中の出目金を見つめている


「大事にしますからッ」

「うん」


彼女のこの笑顔が見れたんだから、良しとしようかな?


金魚すくい



― 後 日 ―


「で?コイツの名前、どうなったの?」

「名前ですか?サッチさん、知りたいですか?」

「出来れば知りたいね」

「そ・れ・は・・・オヤジですッ」

「ちょっと待って!!それダメ!何かダメだからッ!」

「どうしてですか?」

「何か・・・うん、俺がNGだよ」

「・・・では、エドワードってどうですか?」

「それもNGです・・・」

「えぇ!?」


○○○のネーミングセンスは、ことごとくサッチをNGに追いやっていた


「もうさ、金ちゃんで良いんじゃない?」

「・・・可愛くないです」

「オヤジもエドワードの方が可愛いとは思えないよ、俺としては・・・」


END

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