短篇 | ナノ

暖かい手


あぁ〜ッ!・・・もう、まただぁ


どうしたもんか、最近、上手く行かない事が多すぎる


「ヤんなっちゃう・・・」


誰も居ない部屋に響く自分の声

誰からも返事はないし、聞こえるのは無機質な機械音だけがする


「またやり直しか・・・」


印刷機から吐き出される紙は、クシャリと拉げてしまっていた

それから何度かやり直すが、吐き出される紙は拉げている


「何なんだ・・・もぉ・・・」


最近の自分は疲れていたのかもしれない

いつもなら、こんな事でイライラしないし、落ち込みもしない

でも、今日は何だかイライラするし、マイナス感情しか生まれてこない


「最悪・・・もうヤダ・・・」


繰り返される紙詰まりと印刷の失敗に嫌気が差し、その場にしゃがみ込んでしまった

誰も居ない部屋にポツリと呟いた

今は誰も居ない

だから、ちょっとくらい弱音吐いても良いよね・・・?


ピピッ・・・ウィイーーーーーン・・・ガシャン


「!?」


何も操作していないのに勝手に印刷機が稼働した


「ありゃ?紙詰まりかぁ?」


誰も居ないと思ってた部屋に存在する、もう一人の声


「・・・サッチ、先輩・・・?」

「■■■、どうした?」


ニカリと笑うと、しゃがみ込んだまま見上げている私を見る


「何回も紙詰まりして・・・何回も印刷失敗して・・・疲れました」


ウンザリとした云い方だっただろう

本当にウンザリしていたから、そうなっているだけだが

少しは可愛らしく云っても良かったのでは?と後になって思った


「そうか、そうか。なら、サッチ兄さんに任せなさい!」

「え?」

「裏表印刷ってのはな、時々、紙が内巻きだったり外巻きになって出てくんだよ。だから、最初に出て来た後にクルクルっと逆巻きにしてやるんだよ」


サッチ先輩は吐き出された紙を手に取り、巻かれた方向とは逆に巻き始める


「あ・・・」

「な?真っ直ぐになっただろ?そしたら、裏面の印刷をすると良いんだぞ?」

「・・・そう、だったんだ」

「ま、コレ、俺もマルコに聞いたんだけどな?」


ニカッと笑うと、大きくてゴツゴツした手が頭の上に乗せられた


「あ、あの・・・?」

「お前、もう帰れ」

「え、何で・・・」

「最近、オーバーワーク気味」

「そんな・・・」


自分ではそう思わなかったが、誰かに指摘されて気付く事もある


「疲れが取れないまま仕事してたんじゃ、ますます効率が悪くなるぞ?」

「でも・・・」

「でもじゃない。印刷くらい俺に云えよ」

「いや、頼めませんよ、私の仕事なのに!」

「だから、その“私の仕事なのに”が効率を下げてんの」


“サッチ兄さんの云う事は聞いときなさい”と云いながら、私の頭を大きく何度も撫でた


「■■■」

「ハイ」

「イイ夢、見ろよ?」

「・・・どうでしょう?」

「そこは嘘でも、ハイって云えよ!」


そう云って拗ねるサッチ先輩に促されて、私は帰路に着いた


暖かい



「よぉ、■■■」

「あ、サッチ先輩、おはようございます」

「おはよ。ってか、元気ねぇな?」

「イイ夢、見れませんでした」

「え?」

「夢の中で、サッチ先輩が楽しそうにフランスパンを持ちながらラジオ体操をしてて・・・」

「何それ!?」

「そのあと、マルコ課長に蹴り飛ばされて宇宙まで飛んでく夢を見ました」

「・・・■■■、やっぱお前、疲れてるんだな・・・」

「みたいですね」

「有給休暇、申請しろよ?マルコには俺が頼んでおくぞ?」


結局、早く帰っても悪夢にうなされて休めなかった私は、可哀想だと思います


END


*****
この印刷機の話は私の実話です。
しかし、サッチ先輩のようなヒーローは現れず、ストレスと闘いながら印刷をしていました。

悪夢に関しては捏造ですのであしからず(^_^;)

フランスパン持ってラジオ体操とか、悪夢でしかないでしょ(笑)

サッチ兄さんが何故、あの場に居たのか?

それは、サッチマジックです。そう、ただの私の願望ですから!

いや、単に残業してたんじゃないですか?ひっそりとwww



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