短篇 | ナノ

戦争の果てに…


「・・・・・・ッ!」


最近、よく見る夢がある

マリンフォードでの戦争の光景

当時、海軍側で医者をしていた私は、幾人ものケガ人を診ていた

しかし、救えなかった命の方が遥かに多い


「・・・ハァ・・・ッ」


気持ち悪いくらいの寝汗

うなされて起きるのは、ほぼ毎日だった

あの戦争から2年

海軍を辞め、今はシャボンディ諸島で小さな診療所を開いている


「・・・ハァ、ハァ・・・ダメだな・・・」


戦争が始まると聞いた時から、覚悟はしていた

だが実際は、自分の腕の中で力尽きていく者をただ見ているだけだった

あの日以来、夢に見るのは力尽きていった者達の顔と悲痛な叫び


「・・・・・・」


キッチンで水を飲み干すと、再びベッドに戻る気にはなれず

その足でシャワー室へ向かった

のぼせるような感じがあり、頭から水を被った


「医者・・・辞めようかな・・・」


本当は、あの戦争を期に医者を辞めるべきだったのかも知れない

私は、医者を続けていて良いのだろうか?

毎日が自問自答だった

シャワーを浴び、ベッドに戻ろうとした瞬間

生暖かい風が室内に吹き込んできた


「・・・だ、誰!?」

「お前か?この島で診療所を開いている、元海軍は」

「お前は・・・ッ!」

「どうなんだ、女・・・」


薄暗い部屋、窓に凭れるように佇む男

月明かりが逆行となり、顔が分からない


「・・・何、診察にでも来たの?」

「・・・そうだな」

「夜が明けたら来て。今は診療時間外よ」

「お前はだろ?俺が診療に来たんだ」

「え?」

「・・・女、ちょっと来い」


顔もよく分からない男に呼ばれるが、足が動かない

もしかしたら、人間オークションに関わっているかも知れない

そう簡単には近付けない


「来いと云ってるのが分からないのか?おれは医者だ」

「この地区で医者は私だけよ」

「おれはこの島の医者ではない」


淡々と話す男は、医者と名乗った


「あなたは一体・・・誰なの?」

「おれか?・・・トラファルガー・ローだ」

「トラファルガー・・・・・・ロー・・・」


北の海では名の通った、死の外科医

今や王下七武海入りを果たした超新星


「女、名は?」

「・・・○○○」

「やはりな」

「何?」

「海軍本部、医療塔で1度会っている」

「・・・医療塔」

「それに、お前の母親とはよく話した。まぁ、追い掛けられてる最中によく逃げ込んでいたからな」

「なんで・・・母さんを?」

「俺は海賊だぞ。海軍に追われるのは日常茶飯事だ」


私の母が勤務していた地区に、よく海賊が出没すると聞いていた

ハートの海賊団すなわち、この男だ


「お前の母は優秀な医者だった。そして、立派な海軍だった」

「あ・・・ッ・・・」


2年前、マリンフォード頂上戦争で命を落とした母

私の目の前で、大将・赤犬のマグマに焼かれてしまった


「来い、○○○」

「来ないでッ!」

「良いから来い・・・」


業を煮やしたローは、○○○の腕を掴み引き寄せる


「ちょ・・・ッん!」


顔を掴まれ、上に向けられた


「動くな・・・・・・お前、ちゃんと寝ているか?」

「か、関係ないッ」

「おれは医者だ。目の前の病人を診るのが仕事だ」

「ッ!」

「どうなんだ、○○○」

「・・・寝ても、悪夢を見るのよ。目の前で沢山の人が死んでいった・・・母さんも、仲間も、大切だった人達が居なくなってしまった」

「・・・・・・」

「私、母さんみたいな医者になるのが夢だったの。でも・・・もう無理みたい。私に人を診る資格はないわ」

「何故、そう思う」

「私は、目の前の命を救えなかった・・・死にたくないと泣いている者を見捨てた」

「しかし、お前は目の前にある命を全力で守ろうとしたのだろ?」

「救えなかったのよ・・・腕の中で息絶えていく仲間、母さんを救えなかった」


今思えば、あの日以来、私はこうして誰かの前で自分を責めたり

泣いたりした事はなかったかも知れない

この男は、私の話す事をただじっと聞いている


「お前の母親は立派な医者だった。おれは、そんな医者の子供を、一度見てみたいと思っていた」

「私を・・・?何で」

「追い掛け回された時、よくお前の母親は子供の話をしていた。海軍本部で医者をしていると云って、嬉しそうに写真まで見せてくれたぞ」

「・・・」

「本当は自分と同じ道を歩ませたくなかった、そう云っていた」

「どうして・・・」

「お前が・・・優しい人間だから、だそうだ」

「・・・ッ・・・」

「2年前の戦争・・・あのような事態になった時、お前はきっと救えなかった命に対して自責の念に駆られ、医者を続けられなくなるのではないか?そう話していた。案の定、海軍を辞め、医者も辞めようとしていたな・・・」

「母さん・・・」


ローに告げられた言葉を聞き、その場に崩れてしまった○○○


「良いか、お前は医者を続けろ」

「無理よッ!私には無理・・・」

「確かにお前は目の前に居る者を救えなかった」

「ッ!」

「だが、命の尊さを知っている。救えなかった者達の分まで、これから救える命と向き合え、○○○」

「ぁ・・・」

「その為にも、今は少し休め・・・お前は頑張り過ぎたんだ」


ローが手をかざすと、フワッと意識が遠のくような感覚に陥った


「・・・ぅ・・・」

おやすみ・・・


ドサッ

○○○が意識を失うと、ベッドに移し入って来た窓から帰って行った


戦争のてに…



朝、目覚めると枕元に1枚の写真があった


「・・・フッ・・・」


小さい頃、母と撮った写真

私が母の聴診器と白衣を身に付け、母を診察している姿があった


「ん?」


ふと裏返すと、母のものではない字が書かれていた


「“お前が病気になったら、おれが診てやる”・・・って、海賊のクセに」


どうしてだろう・・・

あの時は海賊を敵対し、殲滅する事だけ考えていたのに

今では、海軍のやり方が間違っていたのではないか?とさえ思う

海賊の中には、あの白ひげのように家族を愛した者、麦わらのように海賊王を夢見る者、トラファルガー・ローのように医者として誰かを救う者も居る

純粋な分、海軍の人間よりも分かりやすい

私はもう海軍ではない

海賊を追いかけ回す必要はもうないのだ

だから、私はあの男が来た時に母の思い出話をするとしよう

海軍に追いかけ回された時、ここに逃げ込んで来たらの話だが・・・


END

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