短篇 | ナノ

サッチ


「お前達ぃ〜!春島についたぞ〜♪」

「・・・テンション高ッ」


現在、モビーディック号は春島を進行中


「○○○、テンション低ッ」

「サッチが高すぎんだよ、バーカ」

「な、バカとは何だよ!?バカとは!!せめて、愛すべきとか付けてよ!!」

・・・ウザい、愛すべき大バカ者のサッチ

「うわぁ・・・○○○の愛で前が見えない」

「そのまま海に落ちてしまえ」

「ひでぇよ!?俺、能力者じゃないから落ちても大丈夫だけどね、でもね!ここは春島だよ?落ちたら寒いじゃん!?」

「だから云ってんだよ」


サッチに暴言を吐くと、○○○は船内へ入って行く


「相変わらず冷てぇな、サッチに」

「エース」

「もうちっと優しくしてやりゃ良いだろ?」

「誰に?」

「んなモン決まってんだろ?サッチだよ」

「何で?」

「えぇえええ・・・」

「これ以上の優しさを私に求めないでくれる?」


エースがドン引きしている隙に、持ち場に戻る


「○○○も、ちょっとは靡いてやったら?」

「なび・・・く?」

「そうよ?サッチ隊長、今日、生ける屍みたいだったよ?アンタが冷たいと嘆いてたって、ハルタ隊長やイゾウ隊長にボヤいていたらしいわよ?もう見てらんないわよ」


持ち場に戻れば、そこには自分と同じ制服を来たナースが頬杖をついて菓子を食べながら話し込んでいた


「いや、靡くも何も・・・」


私はサッチの事が好きだ、とは云えない

知っているのも、多分、ごく一部の人間だけだろう

別に秘密にしたいワケじゃない

だからと云って、公にしたいワケでもない


「とにかく!たまにはサッチ隊長の愛の囁き、聞いてやりなよ?」

「ハイハイ・・・」


持ち場に戻れば同僚ナースから、甲板に出れば隊長格や各隊員から

サッチは皆から愛されてるね

それに比べて、私はダメな人間だ

何でも卑屈に捉えてしまう


「浮かない顔して、どうした?○○○」

「・・・お前のせいだよ」

「ぅわぉッ!?俺のせい!?心外だなー」


言葉とは裏腹に、サッチは笑顔で応える


「サッチって、凄いのね?」

「俺が?」

「うん。皆に愛されてる」

「確かに。何せ、愛すべきアホだからな!」

「自分で云ったらダメでしょ・・・」

「そうか?でも、○○○が付けてくれたからな〜“ウザい、愛すべき大バカ者のサッチ”の方が良いかもな!」


そう云うと、二カッと白い歯を見せて笑う


「どうして、そんな恥ずかしいこと、堂々と云えるんだよ・・・」

「恥ずかしいか?」

「サッチの存在もろともな」

「ハハハハハハッ!」


憎まれ口を叩く私にも、この寛容さ

だから私は、この男に惹かれたのだろう


「確かに、愛を囁くのは恥ずかしいだろうな?でもよ、人間、いつ死ぬか分かんねぇし?俺達の稼業はなんだよ」

「海賊・・・だね」

「だろ?だから、惚れた女に全力で愛を囁くことに決めたんだ」

「・・・・・・・・・」

「あと、このモビーに乗ってる家族全員と傘下の奴ら全員にも!」


あぁ、この男は、本当に愛すべきアホ改め愛すべき大バカ者だ


「そんなだから・・・」

「???」

「そんなだから、私はサッチが好きなんだろうなぁ・・・」

「!!!!」


サッチの目が皿のように丸くなっていた


「こんな女だぞ?」

「知ってる」

「いつも暴言吐いてるんだぞ?」

「馴れちまったさ!」

「アンタ以上に、私の方が好きなんだからな?」

「それはそれは光栄で」


サッチの顔が、ニヤリとなり抱き締められた


「あ、そうだ。この間、戦った船から奪ってきたんだけどよ?コレ、悪魔の実なんだとよ。俺が奪ってきたから、俺のモンにしても良いってオヤジが云ってくれてよ!」

「へぇ〜・・・何の能力なんだろうね?」


あれから、数日後、私は愛すべき人を失ってしまった・・・





「ホントの・・・大バカ者だよ、アンタは・・・」


もうすぐ、戦争が始まるらしい

エースが捕まり、公開処刑の場・マリンフォードへと乗り込む

きっと、全員無傷でってワケには行かないと思う


「もっと、本気で愛を囁いてやれば良かったなぁ・・・」


アンタが愛した家族

きっと取り戻してくるから


END

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