短篇 | ナノ

梅酒ロック


誰だって嫌な事の1つや2つはある

例に漏れる事なく、君にだって…

我慢しないで、泣いても良いんだぞ?

無理して笑わなくて良いんだぞ?


「では、毎年恒例の飲み会です!乾杯ッ!!」


会社の全員、部署も関係なく交流を深める為のいわば親睦会


「…あれ?」

「どうかしました?」


辺りを見回すと、見当たらないスタッフが1名


『■■■は?』

「あ、■■■は少し遅れるそうです」

「へぇ…」


■■■は中途採用で入ってきたばかりの新人だ

まだまだ未熟で、やらかす事も多い

でも、そんなのは誰だってそうなんだし、当たり前

なのに、あの子は気にし過ぎちゃうと云うか、気ぃ遣い症?

雇った本人が云うのは問題だが、もっと気楽にやれたら良いのに…


「しかし、■■■は物覚え悪いよな?」

「確かに…でも、アイツだって頑張ってるよな?」

「来たばかりの頃から比べたら、全然!動ける様になって来たよね?」


ほら、酒の席でも君の話題

こういう場所では大体が、仕事の愚痴や不平・不満なんだよ?

社長のおれが此処に居ても、居なくても君の事を悪く云ってる人をおれは知らない

だって、君が素直で正直な人間だから

だから、皆は君を評価しているんだよ?


「しかし遅いな?」

「■■■ですか?確かに…」

「■■■、ドジだから店…間違えてたりしないか?」

「…有り得ますね?」

「私、そんなにドジじゃありませんよ?酷いじゃないですか、社長達…」


背後から聞こえた■■■の声

振り返ると、いつもの笑顔だった

遅れて来た■■■は

ゴメンなさい

と、謝りながら席に着いた

先輩や仲間達から

何のむ?何たべる?

と、聞かれると遠慮しているのか質素な物を頼む

君らしいと云えば君らしい


「■■■〜!新人なのに随分と重役出勤だなぁ〜?」


ガハハハと笑いながら、ビールジョッキ片手にヤソップがからかう


「え!?」

「え?じゃねぇだろ?ほら、肉食え!」

「ヤソップ、酔っぱらって絡むのはやめろ…■■■、また絡まれたら大変だから頭んトコにでも座ってろ」

「へッ!?い、いや、そんな恐れ多い!私は隅っこで充分なんで!」


■■■を助けるべく、酔っぱらったヤソップを諌めるベックマン

隣に座れと云われ、恐縮して部屋の隅に座る■■■

その姿を見て、しょうがないとシャンクスの隣に座るベックマン


「アンタは若いヤツを入れたらソイツばっか気に掛ける。アンタの悪いクセだな…」

「そんな事ないだろ?確かに■■■は新人だけどさ?」


ベックが云いたい事は何となく分かっていた

出来の悪い子ほど可愛い

そう云われるように、おれは確かに必要以上に気に掛けていたのかもな…


「分かりやす過ぎるんだ」

「分かりやす過ぎるって何だよ!?」

「大方、この親睦会ってヤツも■■■が早く馴染めるようになんだろ?」

「ご明答…気付いてたか」

「何年の付き合いだと思ってんだ?長年一緒に仕事してたら分かるぞ」


結構酒を呑んでいると思ってはいたが、やはり知将は違うな


「アイツに聞きたい事が沢山あるんだろうなって思ったから、隣に座れって云ったのに」

「そうだったのか…気付かなかった、スマン」


ベック達と話していたら、急に隣に人の気配を感じた


「社長、なに飲みますか?」


声がする方へ向き直すと、そこには■■■の姿があった

それに気付いたベックは

ちゃんと、聞きたい事は聞けよ?と、小さく残し消えて行った

おれのビールジョッキと

■■■の烏龍茶が入ったグラス

カランと氷が落ちるまで話してみたかった


「仕事はどうだい?」

「お蔭様で、大分慣れては来ました…でも、まだまだ不慣れな点もありますし、皆にご迷惑を…」

「自覚があるなら、徐々に良くなって行くさ…怖いのは自覚が無くて向上心が欠けてしまう事だから」


なんて、ちょっと社長っぽい事も云ってみた


「君って、どういう子なんだ?おれ、まだ良く分かんないんだよな、正直…」

「どういう子…ですか?」

「うん」

「私は…」


ジョッキのビールを飲み干し、君のグラスが空になる頃には、君の事を今よりは知る事が出来ているだろうか?


「最近だと…」


君の好きな食べ物

嫌いな食べ物や好きな音楽

今までにしてきた部活や、得意な教科、趣味や特技まで話してくれた


「私は、自分でも分かる位に要領が悪くて、人の2倍も3倍も頑張って、ようやく一人前なんです…」


少し自嘲したように笑う君


「トロいし、云われた事も1回で覚えられないし、仕事を増やしちゃう事だってあります…」


そう云って俯くと、涙声となってゆく君


「でもさ、少しずつだけど、進歩して来てるぞ?おれだけじゃない、スタッフの皆も云ってたし」

「ホント…ですか?」

「おれが嘘つくワケないだろ?」


少しおどけて見せると

そうですね?

と、笑顔が見えた

君の感じる不安感とおれが思ってる不安感

きっと方向は違っている

でも、その延長線上でいつか交わると良いよな?


「もっと自信持った方が良いよ?美人だし、仕事だって出来る様になったんだから」

「そう…でしょうか?ってか、び、美人ではないです!」


おれはきっと、この子をほっとけないんだと思う

ちょっとしたスキにふらふらとどっかに行ってしまう様な、危なっかしい所があるから

男女間での好きではない、人間としての、一個人としての好き…なんだ


『まぁ、君自身が“■■■ ○○○”を好きにならなきゃ、元も子もないけどな!』


そう云うと、新しいお酒を頼んだ


「…頑張ります」

『お待たせしました』


コトンと置かれたのは、梅酒ロック


「梅酒、ロックですか…?」

「あぁ、旨いんだよ。それにココのはちょっとキツめでな!そこが良いんだ」


と、口を付けようとしたその時…


社長ッ!!

「ッ!?」


部屋中に響く大声で呼び止められた


「な、なんだ!?」

「確かに私はドジです!」

「…ぁ、ハイ」


実にマヌケな姿だ


「まだまだ、迷惑掛ける事も沢山あります。これからも宜しくお願いしますッ」


そう云うと、おれの梅酒を奪った


「あ、ソレ…」

「■■■○○○、呑みますッ!!」

『えぇええッ!?(@□@:)』

「どうした、かし…え?〕


■■■は呑めもしない酒を呑み、そのまま眠ってしまった

■■■にはまだ早過ぎる

そうだな、せいぜいソーダ割り位がお似合いだから

もう少し、歳を重ねてまだ、君がおれの会社で働いていてくれたら

梅酒ロックを一緒に呑もうじゃないか


ック



「社長としては、こういう新人は大歓迎だ」


酔い潰れた■■■は、何故か今、おれのひざ枕で熟睡している


「……ベック〜、助けてくれよぉ〜」

「断る。酔っ払いの面倒を見るのはゴメンだ」

「なに云ってんだよ!おれ知ってんだかんな!」


子供が親に告げ口をしようとしているような雰囲気の口調で、ベックマンを睨みながら呟くシャンクス


「……何をだ?」


シャンクスの顔を見て、心底イヤな予感しかしなかった

この人のこういう時の顔っていうのは、大体が確信を突いてくるから


「お前がこの子のこと、気に入ってるって事だよ」

「…ッ」


シャンクスは、少なくともこの■■■に好意を抱いているであろうベックマンの、微妙な変化に気付いていた

だから、酔っぱらって床に転がっていた■■■を自分の膝に乗せ、ベックマンの反応を見て楽しんでいた


「ボヤボヤしてっと、持ってかれっぞ?」

「……」

「ベック」

「■■■には嫌われているだろうけどな…」


そう云うと、煙草に火を点け紫煙を燻らせるベックマン


「嫌われてるっつーか、怖がられてる…だな」

「それは…顔か?中身か?」

「両方、だろ」


自嘲気味に笑い、また紫煙をフーッと吐くと天井を見つめるベックマン


「ま、気長に頑張れって事だな!楽しみだ」

「おれで遊ぶな」


きっとこの2人、上手くいくんじゃないかと思ったのは暫く伏せておこう

暫くは楽しめそうだからな


END


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