短篇 | ナノ

魔法の眼鏡


「おい眼鏡」

「ぶ、部長!」


私のあだ名は“眼鏡”

しかも、眼鏡ってあだ名は部長であるこの人しか呼ばない


「どこ行くんだ?」

「しょ、書類整理です」


“あ~今日の書類整理担当、ウチか~”と宙を見ている


「行ってきます」


苦手な人種なのは確かだ

しかし、上司だし、仕事も出来る・・・と思う


「■■■、書庫に行くのか?」

「あ、ベックマンさん。はい、今日はウチが担当ですから」

「ノルマは?」

「3箱・・・ですかね?」

「了解。ま、頑張れや」


ハッキリ云うと、ベックマンさんの方が部長に向いているんじゃないか?とさえ思っている


「今日は、3箱っと・・・よいしょ」


積み上がった段ボールから同じ頃に箱詰めされたであろう3箱をチョイスする

不要な書類はシュレッダーに、必要な書類はファイリングを・・・

これが年間作業に組み込まれてしまい、各部署で輪番制で課せられている


「よぉ!」

「ひッ!?」


突然、する筈もない声が聞こえ自分も声を上げる


「しゃ、シャンクス部長・・・どうしてココに?」

「ん?書類整理」

「え?」

「眼鏡ばっかり書類整理やってるだろ?」

「・・・まぁ、そうですけど」

「それに、書庫って楽しそうだしな!

「遊び場じゃないんですよ?ココに来たんなら、書類整理して下さいね?」

「わぁーったよ!」


ワクワクしているシャンクスを余所に、書類整理を続けている


「うぉーーー!」

「(ビクッ)こ、今度は何ですか!?」


本当に仕事して欲しいよ・・・

ノルマ達成出来ないじゃないか・・・

アンタ、仮にも部長でしょ?部下より使えないってダメじゃん・・・


「見てみろ、眼鏡!」


嬉しそうに1枚の写真を持ってきて見せる


「・・・あ」


映っているのは、数年前の慰安旅行の写真


「お前、この頃から眼鏡だな?」

「どういう意味ですか?」

「お前、ずっと眼鏡だなぁって意味。コンタクトにしないのか?」

「・・・体質的に合わなかったんです」

「ふーん」


“眼鏡外したら美人そうだけどな?勿体ねぇな・・・”と呟くシャンクス


「(あ・・・部長って隣に居たんだ・・・知らなかった)」


よく見ると、シャンクスが隣に映っているのを見て驚く

この頃は部署が違い名前を耳にする程度だった


「ん?・・・あ、ベックマンさんも居る」


何の気もなしに全体を見ると、シャンクスの隣に座るベックマンを発見した


「眼鏡」

「はい?」

「やっぱり、ベックが好きなのか?」

「はい?」

「ベックが好きなのか?って聞いてんだよ」

「ちょ、どうしてそうなるんですか?」


突然の質問に驚く

何をどうしたらそうなったんだ?


「眼鏡・・・おれを選べ」

「ぶちょ・・・?」

「お前が好きだ」


いつものおちゃらけたシャンクスではなく、真剣な眼差しで射るように見つめられる


「か、からかわないで下さいッ!」

「からかってねぇよッ!」


苦手な人種ではあるが、容姿はその辺の男に比べたら別格であると思う

そんな男が、今、自分の事を好きと云っている

からかわれているに違いない

こんな男が、自分のような地味でなんの取柄もない女に興味を持つワケがない


「部長なら・・・もっとイイ人が居る筈です」

「何だよそれ・・・」


ギロリと睨まれ、後退りする

後退りした先には壁しかなく、ドンと行き詰ると衝撃で持っていた書類を落としてしまった

バサバサと床に散らばる書類を拾おうとしゃがみ込む


「おい」

「ッ!」

「眼鏡・・・おれを選べ」


書類を拾おうとした手を掴まれ、壁に縫い付けられる


「ぶちょ・・・」

「その写真撮る前から・・・好きだった」

「え?」

「旅行の時、漸くお前の隣に座れたんだ・・・」


そんな前から、自分の事を好いていてくれたのかと思うと気恥ずかしくなる


「だ、だって、部長と部署、違ったじゃないですか・・・それに、ベックマンさんだって」


接点が何もない自分が、どうしてシャンクスに好かれるのか不思議だった


「眼鏡、ウチの部署によく書類届けに来てただろ?その・・・何つーか、ひ、一目惚れだ」

「ッ!」


少しだけ赤くなっているシャンクスを見ると、からかわれていないという事は理解出来た


「わ、私なんかで良いんですか?」

「眼鏡だから良いんだ」

「し、知りませんよ?他にもっと綺麗な子が入ってきても・・・」


からかわれていないのなら、この男に賭けてみようか?

今まで地味で、なんの取柄もなかった自分を好きと云ってくれるこの男を


法の眼鏡



「ところで部長、私の名前知ってますか?」

「知ってるぞ」

「云ってみてください」

「何でだよ?」

「ホントは知らないんですね?」

「知ってるって!■■■・・・○○○、だろ?」

「はい」


“名前で呼ぶのが恥ずかしいから、眼鏡ってあだ名を付けて呼んでいた”と、のちにベックマンさんから聞いて爆笑したのは内緒だ


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