短篇 | ナノ

トラファルガー・ロー


それは、本当に偶然だった


「・・・あ」

「・・・・・・」


手を伸ばした先には、二回りは大きな手があった


「あ、ど、どうぞ・・・」

「・・・・・・」


その大きな手の人は、無言でこちらを睨んでいる


「あ、あの・・・?」

「お前は」

「・・・はい?」

「お前は、前にもそうやって誰かに譲っていたな」


そう云うと、手を伸ばした先にあった少し厚い本を取り出し、私に手渡した


「あ、あの、コレ」

「今日はお前が持って行け。おれは1つ前のシリーズで持っている」

「え、でも、前回から改訂されたものもある・・・」

「ただの参考書だろ?おれは今あるので十分だ」


男はニヤリと笑い、その場を去って行く


「・・・あ、あの人、同じ大学の」


同じ医学部のトラファルガー・ローであると気付いたのは、彼が去ってから暫く経ってのことだった


- 次の日 -

「トラファルガー君」

「・・・なんだ」

「昨日はありがとう。お陰で、次のレポート何とかなりそう」

「そうか。良かったな」

「でね?コレ、良かったら読んで?」

「要らねぇ」


ローは差し出された本に目をやると、すぐに読んでいた本に視線を落とした


「だって、昨日、あの本、取ろうとしてたじゃない?でも、私に譲ってくれたから・・・」

「お前のは第12版だろ?おれのは第11版だ。特に違いはねぇ」

「法改正とか、手法が一部変わってたよ?大丈夫?」

「・・・講義を聞いていたら分かる範囲だ」

「う・・・」


それで分からないのはどうかしている、そう云われた気がして困った


「それに」

「ん?」

「毎回、毎回、誰かに譲っていたらお前が困るんじゃねぇか?」

「え・・・?」

「お前に本を譲られるのは、アレで3回目だ」

「・・・えぇええええ!?」

「うるせぇ。図書室で騒ぐな」


本をパタンと閉じ、眉間に皺を寄せるロー


「それに、そんなに誰かに譲ってばっかだと、本当に大事なモンまで持ってかれるぞ?」

「え、だ、大事な・・・もの?」

「あぁ」

「トラファ・・・ッ」


何が起こったのか理解出来なかった


偶然がくれただった



「・・・嘘」


耳元で囁かれた一言で、私はそこから動けなくなった


「もう二度と云わねぇからな」

「・・・・・・」


ローはぶっきらぼうに告げると、図書室を出て行き

私は追い掛ける事も敵わなかった


END

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