短篇 | ナノ

トラファルガー・ロー


「・・・あ」


どうしてか話せない


「あの・・・」


かれこれ20回は試した


「その、あ・・・」


どうしたもんか、目の前には女子の壁


「(仕方ないか、ロー君は人気だからね・・・)」


かくいう私もその壁の一部になっているんだろうなぁ・・・


消えろ、今すぐに


ロー君の周りにいた女子達は蜘蛛の子を散らしたように消えていった


「(・・・・・・)」


今年も結局渡せず終いだったなぁ・・・

そう思いながら、綺麗とは云えないラッピングのチョコを再び鞄に押し込んだ

そして、高校生活最後のバレンタインデーは終わった


「今年で最後、だったのになぁ・・・」


日誌を書きながら、グラウンドに目を向けた


「あーぁ、ロー君は沢山貰ったんだろうなぁ。あげても、きっとその他大勢って感じで埋もれちゃってたか・・・」


頬杖をつきながら、校門を出て行く人の流れを見ていた


「甘いのは苦手だ」

「!?」


1人だと思っていたのに、突然返事が来たから驚いて声のする方へ向いた


「ト、トラ、トラファ!?・・・ロー君!?」

「■■■、お前・・・独り言多いな」

「え!?いや、え!?なん・・・えぇえええッ!?」

「うるせぇ」


女の子の壁が出来ていた時には見られなかった、柔らかい表情で両耳を塞ぐロー


「いつから、居たの・・・?」

「2〜3分前だ」

「それって・・・?」

最初から聞いていた

「いぃいいいやぁあああああッ!!」


もう、この場から逃げ出したい

どうしてだ?どうしてこうなった!?


「■■■」

「はいぃ・・・?」

「おれはお前から1度もチョコを貰ったことなんてねぇ」

「・・・はい?」


1度だってあるワケがない

だって、毎年渡せず終いだったんだもの


「その他大勢に埋もれたりしねぇから、寄越せ」

「・・・・・」

「早く寄越せ。あるんだろ、チョコ」

「あ・・・」


渡そうと思っていたが、いざ本人を目の前にして気付いた

こんな手作りチョコを渡そうとしていたのか、自分!!


「・・・いや、ないよ!」

「・・・フッ」


ローは意地悪そうな顔で鞄を奪う


「あ!!」

「持ってんじゃねぇか」

「ダメッ!それ、ダメだから!!」


取り返そうとするが、身長差があるからか届かない


「うるせぇ」


そう云って、チョコを取り出し口に放り込む


「・・・甘ぇ」

「なんで・・・」

「あ?」

「なんで、食べたの?」

「お前がおれに寄越そうとしたんだろうが。なら、おれが食ったって文句ねぇだろ?」

「いや、その・・・」


付き合ってもいない相手に手作りチョコを渡す

それがどれだけ重いのだろうか?と考えただけで恐ろしい


「美味しくない・・・でしょ?」

「・・・は?」

「美味しくないでしょ?ゴメンね・・・」

「別に・・・だったら、食ってみろ」


再び意地悪そうな顔をするローが迫って来る


「ちょ・・・ん、んぅ」


無理やりに放り込まれたチョコが口腔内を占拠する


「甘ぇだろ?」

「うん」

「おれは甘ぇのは苦手だ」

「・・・うん」

「だから」


トンッと壁際に追い込まれると、近付く顔が再び意地悪そうに笑む


「来年はもっと美味く作りやがれ」

「・・・え?」

「分かったか?」

「・・・は、はい」


ローの口が楽しそうに歪んだ






「そうか・・・」

「ッ!?」


一瞬ではあるが重ねられた口唇からは、甘い香りが漂っていた


「次はこの半分で良いからな、甘さ・・・」

「・・・え、えぇええ」

「ごちそうさん」


そういうと、ローは教室を出て行った


「次って・・・来年は美味く作れって・・・どういう、こと・・・?」


そのままズルズルと壁をずり落ちて、暫く動けなかった


END


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