短篇 | ナノ

サッチ


「お前なんか大ッ嫌いだッ!!」

「あぁそうかい。なら、どっか好きなトコに勝手に行きな?」

「行くわよッ!!」


サッチなんて大嫌いだッ!!

いつも私に意地悪するから

いつも私にだけ、優しくないから





*****


「で?毎回ケンカする度におれン所に来るのは何でだ?」

「だって、イゾウ隊長ん所しかないんですもの・・・」

「いやいや、お前な?よく考えろ?足りない頭で考えろ?おれはお前の隊長じゃないぞ?」

「知ってます。でも、イゾウ隊長はみんなの隊長ですから」

「なんだそれ・・・」


ケンカする度に16番隊の元に来るのはいかがなものか?


「お前、救護班だろ?ってか、雑用係」

「雑用って云わないで下さいよ。結構傷付くんですから、それ」

「知ってる。ワザとだ」

「酷ッ!!」


○○○は古参のクルーだ

4番隊の副隊長まで務めた女だが、予想外の敵襲で負傷し戦闘員として動けなくなった

戦闘員として動けなくなった後すぐ、○○○はモビーを降りたいと申し出たがある男に反対された

サッチだ

何を考えているのか分からないワケではないが、○○○にはサッチが意地悪をしているようにしか思えないようだ



カーン!カーン!カーン!

「敵襲ッ!!敵襲ッ!!」



突然の敵襲の鐘


「イゾウ隊長!?」

「まさか、モビーに奇襲してくる奴らがいるとはな・・・久々にアツく歓迎してやるか」


イゾウは嬉しそうに銃を携える


「○○○、お前は中に居ろ」

「でも」

「お前が出る幕はねぇって」

「え・・・」

「誰にも怪我なんてさせねぇよ」

「・・・隊長」


イゾウは○○○の頭を乱暴に撫でると、部屋を出て行く





*****


「私も行かなきゃ・・・」


ドアの向こうで聞こえる怒号

銃の発砲音や剣戟音

何か、自分もしなければ・・・そう思っても、自分には何が出来るだろうか?

色々と思案していると、乱暴にドアが開かれた


「!?」

「こんな所に女が居るぞ」

「なら、連れて行け」


2人組が迫って来る


「な、何するの!?離してッ!!」

「うるせぇッ!!」


男2人に掴まれたら、流石に敵わない

ズルズルと甲板へ引っ張り出される


「○○○ッ!!」

「な・・・ッ!?」


○○○の姿を見て、イゾウとサッチが目を見開く


「おいッ!コイツに手を出されたくなきゃ、大人しくしなッ!!」


男が卑下た声で笑いながら、モビーに響く大声で叫ぶ


「とりあえず、積荷を全部寄越せッ!あと、金品もだ」


まさかコイツら、この船がモビーって知らないで云ってる?

最近は俄か海賊も多くなってきていたが、まさか四皇の船に挑む命知らずが出て来るとは・・・


「皆ッ!構わずにやっつけてッ!!」

「うるせぇっ!!」

「ッつ!!」


男に殴られ、○○○はそのままバランスを崩し船外へ放り出されてしまった


「「 ○○○ッ!! 」」


叫ぶよりも先に、身体が動いた


「イゾウ、あと任せたッ」

「あぁ」


サッチは○○○を追い掛け、海に飛び込む





*****


「(ヤバい・・・結構、水、飲んじゃったな・・・早く上がらなきゃッ!!)」


結構な高さから打ち付けられた事もあり、肩を痛めたらしく上手く動けない


「(早くしな・・・ッ!?)」


浮上しようともがいてみたが、身体が浮かばない


「(足ッ!抜けない・・・っ、息が・・・)」


突然放り投げられたから、息だってそんなに長く続かない

あぁ、私、ココで死んじゃうんだ・・・

もっと、良い死に方したかったなぁ


「ガボッ・・・ゴボッ・・・」


息も続かなくなり、意識も朦朧としてきた


「(どうして・・・サッチ?)」


酸素の行き渡らない脳で、目で最期に見たモノは他でもないサッチだった





*****


「○○○ッ!・・・オイッ!!」

「・・・・・・・・・」

「クソッ!死ぬなッ、死んだら何にもねぇぞ!!」

「・・・・・・・・・」


力いっぱい心臓マッサージをする


「(戻って来い、○○○ッ・・・)」


人工呼吸がお前との最後のキスだなんて、おれはゴメンだ


「おいッ、○○○ッ!!」

「・・・ぅ、ゲホッゲホッ・・・ぁ」

「○○○!!」

「・・・・・・最悪・・・サッチとキス、する、なんて・・・」

「・・・うるせぇ、したくてしたんじゃねぇよ」


これだけ悪態つけるんなら、もう大丈夫だろうな?





数日後


「サッチ、申し訳ねぇが、それはキスじゃなくて人工呼吸だぞ?」

「・・・知ってるよ、うるせぇな」

「ってか、素直になれよ。○○○が心配だからモビーから降ろしたくなかったって云ってやれよ」

「云えるかよ!ってか、何でお前、それ」


イゾウの何気ない一言に驚愕する


「え、お前、誰も分かってねぇって思ってたの!?」

「・・・」

「モビーのクルー全員が分かってるぞ?エースでさえも。ってか、分かってねぇのはアイツだけだ」

「・・・おれって一体」

「ドンマイ、サッチ」

「慰めんなッ!!」


○○○と恋仲になるには、まだまだ時間が掛かりそうです


END

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