短篇 | ナノ

エース


「・・・どうして?」


町で流れるニュース

それは、どう考えても彼の事だった


『白ひげ海賊団 火拳のエースを処刑』


あんなに強いのに

あんなに仲間想いなのに

どうして?

どうして彼を殺さなければならないの?



*****

「なぁ、○○○」

「ん?」

「おれは、海賊だ」

「知ってるよ」

「お前を船に乗せるなんて出来ねぇんだ」

「分かってる」

「いつになるか分からねぇ約束をする気はなかったんだ」

「うん」

「けどよ?待ってて欲しいんだ」

「待つよ。いつになるか分からなくても大丈夫」


向かい合って、目と目が合うだけで引き寄せられる口唇


「コレ、やるよ」

「何?コレ」

「ビブルカードって云うんだ。おれの居場所を示したり、健康状態とかも教えてくれる」

「凄いのね」

「あぁ。もし、この紙が全て燃え尽きてしまったら」

「燃え尽きてしまったら・・・?」


この続きは、何となく予想がつく

けど、その続きは聞きたくない


おれが死んだってことだ

「・・・やっぱり、そうなのね」


この紙が、エースの全てを語ってくれる


「大丈夫だ、おれは死なねぇって」


二カッと白い歯を見せて、太陽のように笑うあなた

その言葉だけを信じて、今日まで生きてきた





*****

「○○○ッ!!」


呼ばれて振り向くと、近所の男の子が居た


「エースがッ!!」


顔を大きく歪ませ、涙でグチャグチャになっていた


「・・・うん」


自分が見ている方向の遥か先に、エースは居る


「エース・・・」


あの日、泣いてでもあなたを引き留めたら船に乗せてくれたかしら?

あの日、行かないでとあなたを引き留めたら考え直してくれたかしら?

きっと、どちらもなく、今と同じ結果になっていたのかも知れない

もしかしたら、生きて帰って来てくれたかも知れない


「あなたとの思い出しかないわ」


もう、形に残るモノは何一つ残っていないの

ビブルカードさえも燃え尽きてしまったから

あなたを探しに行くことも出来ないの


「・・・ッ、エー・・・ス・・・」


こんなに辛い別れになるとは、思っていなかった


エースッ!!


大声で叫んでも、何をしてももうあなたは戻らないのね





*****

「お前さんが○○○かよい?」

「・・・えぇ」


あのニュースからどの位か分からないくらいに月日が経ったある日、一隻の海賊船が町に停泊した


「おれは白ひげ海賊団のマルコだよい」

「白ひげ・・・海賊団?」


エースが所属していた海賊団


「お前さんに伝言だよい」

「伝言・・・?」

「エースからだよい」

「エース・・・?」


名前を聞いただけで、目頭が熱くなる


“愛してくれて、ありがとう”

「ッ・・・!!」


熱くなった目頭は、最早、自分では制御出来なかった


「アイツ・・・最期に笑ってたんだよい」

「笑ってた?」

「あぁ」

「良かった・・・」

「良かった?」

「えぇ。エース、自分は生まれてきても良かったのか?その答えが欲しかったんじゃないかって思っていたんです・・・本人から聞いたワケじゃないですけど」


エースが悔いのない人生を歩めたのなら、それで良いんだと思う


「なぁ、お前さん」

「何ですか?」

「・・・いや、何でもねぇよい」

「当てましょうか?今、マルコさんは“船に乗らないか?”って云おうと思ったんじゃありませんか?」

「・・・あぁ」

「お断りします」

「そうかよい。一応聞いとくが、何でだ?」

「だって、あなた達、海賊でしょ?私、海賊にはなりたくないですもの。それに、海は危ないからね」


月日が経ち、泣き暮らしていた日々は落ち着いた

それは決して、薄情になったワケでも想い人を忘れてしまったワケでもない


「・・・フッ、分かったよい。じゃあ、達者に暮らせよい」

「えぇ」

「じゃ、伝言は終わりだよい」

「・・・ありがとう」

「あ、最後に一つ。エースはオヤジと一緒に眠ってる・・・赤髪がきちんと弔ってくれたよい」

「そう・・・安心したわ」


お墓の場所を教えて、なんて云わない

聞いたら、私はきっと前に進めなくなってしまうから


「マルコさん」

「ん?」

「お願いがあるの」

「何だよい」

「もし、またエースのお墓に行く事があったら伝えてくれる?」

「何をだい?」


伝えたかった言葉、それだけは持って行って貰う事にした






「マルコ、どうした?」

「・・・悲しい、辛い、全てを抱え込んだ女ってのは強くなるんだな」

「・・・あの子か?」

「あぁ」


出港し、港で見送ってくれている姿が少しずつ小さくなっていく


「“今度はあなたが待っててね。愛してくれてありがとう”だとよ」

「・・・そうか」

「守って、やりたかったよい」


あの小さな身体で、抱えきれない程の悲しみも苦しみも味わったのだろう

家族を愛してくれて、ありがとう

必ず、お前さんの言葉はエースに届けてやる


END

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