短篇 | ナノ

ベン・ベックマン


「あ、あの・・・?」


突然呼び出され、家を出て来たは良いが場所に戸惑う


「来たか」

「ベンさん?」

「いつまでそこに突っ立ってるんだ?早く座れ」


ベンに促され、隣に腰掛ける


「あの・・・」

「いきなりすまなかったな」

「いえ・・・でも、どうしてこんな場所に?」


ココは非日常的で、自分に不釣り合いなほどに煌めく夜景が見えるバー


「接待の帰りだ」


そう呟くと、持っていたグラスを煽る


「もう少し、綺麗な格好で来れば良かった・・・」


後悔してももう遅い

ドレスコードなんてないが、ある程度の服装でなければ入れない場所ではないか?とさえ今更ながらに感じるくらいの高級感のあるバーであった


「・・・充分だろ」

「ベンさんは・・・相変わらず、素敵、です」


グラスを煽る姿は、この場の雰囲気にも合っており、本当に自分の恋人なのだろうか?と疑問に感じてしまう程だ


「さっき」

「ん?」

「さっき、先方の専務から声が掛かった」

「声が・・・って、引き抜き?」

「・・・いや、見合い、だそうだ」

「見合い・・・?」


一瞬の事で目の前が真っ暗になった

これ程の男、他の者が放っておく筈がない

寧ろ、自分の恋人である事さえ今だに信じられない時もあるというのに・・・


「そっか、ベンさん、お見合いするのか・・・」


それは嫌味でも強がりでもなく、ただ口を吐いて出て来た言葉であった


「おれじゃない。お前にだ」


俯く私に、ボソリと呟く


「・・・は?」

「だから、お前にだ。先方の専務の息子が、お前を気に入ったそうだ」

「わ、わ、私を!?い、いや、無理!ダメ!!」

「・・・そう云うと思った。というか、云わせるつもりはねぇよ」


慌てる私を余所に、グラスに残った氷をカランと揺さぶるベン


誰の嫁にもなるな。おれの嫁になれ。


無骨な手から差し出されたのは、小さな小さな箱だった


「ベン、さん・・・?」


状況が呑み込めず、呆然としていると一瞬だけだったがベンが微笑んだ


「だから、今日、お前をココに呼んだんだ」


照れ隠しなのか、マスターに酒を1杯オーダーして誤魔化そうとしているベン


「・・・ッ、喜んでお受けします」


答えはYESしかない

それは、もはや決定事項なのです


ロポーズ作戦


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