短篇 | ナノ

サッチ


「いらっしゃいませー」


入口のドアが開き、立ち尽くしている女の子が目に付いた


「いらっしゃいませ。今日はどうしますか?」

「・・・あの、カットを」

「失礼ですが、ご予約はされていますか?」

「すみません。飛び込みです・・・」


よくある飛び込みの来店

だから、然程気にはしていない


「ではカード、作るんでお名前をこちらに」

「・・・はい」


俯き加減の女の子はゆっくりとペンを取り、記載欄に記入をしていく


「では・・・■■■様、こちらに」


彼女を椅子へ案内する


「本日の担当は、私サッチがさせて戴きます」

「よ、宜しくお願いします」

「こちらこそ♪じゃ、■■■様?今日はカットという事ですが、どのようにされますか?」


失礼します、と云いながらケープを掛ける

時折、首元に引っかかった髪の毛を引っ張り出したりする


「えっと・・・」

「もしかして、まだ決まってませんか?」

「・・・あの、特に決めてなくて・・・出来ればバッサリと」

「・・・この長さを?」


どう見積もっても、バッサリというには20〜30cmは切る事になりそうだ


「き、気分を変えたくて・・・」


俯き加減で告げる彼女

どうやらワケあり?って感じだ


「かしこまりました。ボブにしますか?ショートにしますか?何ならセミロングとか、ショートボブとかもありますが?」


バッサリとだけ云われても、やはりある程度の指標は欲しい


「えっと・・・サッチさんにお任せします・・・

「・・・え?」


初めて云われた、“お任せします”って!


「でも、良いんですか?」

「ハイ。とりあえず、このロングヘアから解放されたいんで・・・」

「・・・了解しました」


シャンプーを済ませ、カットに入る


「(とは云ったものの、このロングヘアをどう切っていこう・・・?)」


人様の髪の毛だ

ましてや、“解放されたい”って云う位だ。何かしらワケありだろう

雑誌を読むワケでも、おれが切っている様を見るワケでもなく、目を伏せている

そんな彼女を観察しては、どんな髪型にしようかと頭の中で構想する


「では、切って行きますね?」

「はい」

「・・・気になる所があったら云って下さい」

「・・・はい」


おれの言葉を聞くと、再び目を閉じてしまう

シャキシャキと髪の毛を切っていく

落ちる髪の毛を見つめていようだった


「■■■様、出来ましたよ」


切り終えた事を告げると、彼女が顔を上げた


容師



「どうぞ」


後ろが見えるように、折り畳みの鏡を添える


「コレ・・・」

「いかがですか?心機一転、新しい■■■様になりましたか?」


鏡の中の彼女は、大きく瞳を開いて何度も瞬きをしている


「凄・・・ぃ」


肩甲骨辺りまであったロングヘアーをバッサリと切り、ショートボブへと変身を遂げた


「きっと、心も軽くなってると思いますよ?」


そう云って、ウインクを1つすると彼女はフフフと笑った


END


*****
サッチって、美容師が似合う!
そして、美容室で“私に似合う髪型をお願いします!”と依頼するのが夢です←
今でも自分に合う髪型が分からず、迷走しております(笑)


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