第12話
記憶に関する検査を何度かした
おれは酒が好きだ
煙草だって吸っている
住んでいる所も、友達の名前も、家族の事だって覚えている
なのに、■■■だけが分からない・・・
「・・・フゥ・・・ッ」
車椅子から松葉杖に替わり、■■■の手を煩わせることも減ってきた
入院してから、サッチやエース、イゾウ達が何度か見舞いに来てくれていたが、アイツらの顔は嫌でも覚えていた
「久しぶり、だよい」
動けるようになってからは、専ら屋上へ来て煙草を吸っている
「こんな・・・不味かったかよい?」
「ま、病院に居るんだし?身体が健康的になってるって事でしょ?」
「ってか、何でまだ居んだよ?さっさと帰れ、変態サッチ」
「酷いねぇ、マルコは。俺が折角、愛を込めて見舞いに来てるのにぃ」
「ハイハイ。ありがたいよい」
煙草の味は久しく、少々煙たく感じた
「もぁ・・・」
「で?思い出せたのか?■■■ちゃんのこと」
「・・・まだだよい。■■■は、無理するなって云ってくれてるよい・・・でも、流石に焦っちまうねぃ」
「まぁ、こればっかりはお前の脳ミソの問題だからな?エース並だと、かなり苦労するぜ?」
「一緒にすんなよい。あそこまで破綻してねぇよい」
サッチと話しながら、フェンス越しの街中の喧騒を見下ろしている
「やっぱ、高いねぃ」
「屋上だからな?ってか、大丈夫か?マジで・・・」
“サッチ心配ッ!”と意味不明なぶりっ子をするサッチを横目に、宛てもなく街中を見続けていた
「
は、早まらないでッ!! 」
「「 ん? 」」
振り返ると、息を切らした■■■が立っていた
「マルコ、早まらないでッ!」
「・・・え?」
「マルコがそんなに思い詰めてたなんて・・・私のこと、思い出さなくて良いから!だから、早まらないでッ!!」
■■■は何か、勘違いをしているようだ
「いやいや、早まるも何も・・・下、見てただけだよい」
「へ?」
「■■■ちゃん、俺が付いてるから大丈夫だって」
「・・・サッチ、さん」
良かったぁ、と彼女はその場に座り込んでしまった
相当焦っていたのだろう
「■■■」
「ん?」
「■■■のこと、必ず思い出す。だから、思い出さなくて良いなんて、もう云うんじゃねぇよい」
「・・・うん」
「お前が簡単に諦めんじゃねぇよい」
「うん」
おれも早く、■■■のことを見つけ出したい
「おーい、俺を忘れてイチャイチャしてんなよ?」
「あ、お前、まだ居たの?帰れよ」
「サッチさん、すみません。忘れてました」
「お前ら、嫌いッ!!」
諦めるな
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