B
「どうぞ・・・」
「お邪魔するよい」
「コーヒーで・・・良いですか?」
「すまねぇ」
大人2人が傘に入るには無理があり、やはり濡れてしまった
部屋に着くと、マルコにタオルを渡しキッチンへ向かう
「砂糖、入れますか?」
「いや、ブラックで構わねぇよい」
「そうですか」
まだ拭き切れていない頭をそのままに、トレイに乗せたカップをリビングに持っていく
「■■■」
「はい」
「何かあったか?」
「え?」
「・・・今朝」
マルコが一言云いかけたあと、コーヒーに手を伸ばした
「今朝から、落ち込んでるように見えた」
「・・・そんな事ないですよ」
「さっき、店の前で逢った時、更に元気がなくなっていたように見えた」
「・・・そんなこと」
「あるだろい?」
マルコの真剣な目が、●●●を射抜く
「・・・・・・今朝、夢をみました」
「夢?」
「ハイ・・・学生時代の夢です」
「で?」
「私、マルコさんの気持ちに応えられません」
「ちょっと待て、何でいきなりそうなる!?」
「自信が・・・ありません」
そういうと●●●は俯き、頭に乗せていたタオルがパタリと落ちた
「私・・・嫌なんです」
「嫌?」
「もう・・・傷付きたくないんです。男の人に裏切られるのは・・・もう、嫌なんです」
「裏切られるって・・・」
何があったのか、聞いても良いのか躊躇うマルコ
「高校・・・3年でした。2年間片思いして、漸く自分の気持ちを伝える勇気が出て・・・初めて、告白したんです」
鼻の奥がツンとするような感覚に襲われる
「その彼とは半年、お付き合いしました。初めての彼でした。どうやって付き合っていけば良いのか、本当に何も知らない子供でした」
ゆっくりと目を閉じる●●●
「電話するのも私から・・・好きって気持ちを表現するのも私から・・・最初はそれでも良いって思ってたんです。でも、やっぱり欲が出ちゃって・・・ある日、聞いちゃったんです」
「何を?」
閉じた目をゆっくりと開けると、クシャリと笑う●●●
「“私のドコが好き?”って・・・重い女、だったんです。漸く、片思いが実って舞い上がって、相手に色々求め過ぎたんです」
「・・・で?ソイツは何て?」
マルコは、聞いても良いのかと思いながらも口を開いた
「無言・・・でした。結局、告白されたから勢いで付き合ったんだって後から知りました」
「・・・・・・」
「別れを告げられたのも、手紙でした。彼の口からは何も聞けなくて・・・手紙には、元カノが忘れられないって。そして、その1週間後・・・私の親友と付き合っていました」
睫毛に溜まった涙が、今にも零れ落ちそうだった
「ダメですね・・・もう10年以上も前の事なのに、未だに引きずってるんです。裏切られてないんです。結局、私がそう思う事で彼を悪者にして自分を守ってるだけなんです・・・」
「■■■・・・」
「私、重い女なんです・・・だから、マルコさんの気持ちに・・・応えられません。ゴメンなさい」
深々と頭を下げる●●●
「意味わかんねぇよい」
「え?」
「お前は、ただソイツの事が好きでそうしていただけだろ?別に重くても良いじゃねぇかよい」
「・・・ぅわッ!?」
急に引き寄せられ、視界が真っ暗になった
マルコの肩に顔が押さえ付けられていると気付くのに数秒要した
「
よく頑張った・・・俺は裏切ったりしないよい 」
「・・・ッ・・・ぅ・・・あ・・・」
「お前が望むんなら、好きって何回でも云ってやるよい」
「ッ・・・」
「不安だって思ったら、何回でも確認しろよい。安心するまで何回でも答えてやる」
「ぅ・・・ッふ・・・」
「だから・・・
俺と付き合って下さい 」
ギュッと強く抱きしめられた
もう、過去の自分に縛られずに済むだろうか?
この人を信じて、前を視て歩いて行けるだろうか?
「答えは・・・急がないと云ったが、やはり今聞かせてくれないかい?」
「私で、良いんですか?」
「お前が良いんだよい」
「・・・ハァ」
大きく溜息を吐く
「
宜しくお願いします 」
もうきっと大丈夫
過去の自分にサヨナラを
「あ」
「どうしたんですか?」
「つかぬ事を聞くが、ソイツ以外と付き合った男って・・・?」
「い、居ませんよ。わ、悪いですか?」
「悪かねぇよ。寧ろ、嬉しいよい」
「何か・・・バカにしてませんか?」
「してねぇよい。っつーか、もしかして、お前しょ「マルコさんッ!!」」
END
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