ふゆやすみ様とのコラボ企画小説A
『本日正午、薔薇亭という店にて待つ』
LINEにて届いたメッセージを見て■■■は深く深く息を吐き出した。
せっかくの休日を外出するなんて嫌すぎるが、今まで何回も断ってきたからそろそろ行かないと後が怖いし、上司の顔もあるので今日は行くことにした。
外に出ると気分が沈むくらいの晴天。
ああ、太陽の光がとても眩しい。
嫌だ。
外に出たくない。
ゲームがしたい。
「…レイリーさんの奢りかな…」
だったらいいのに、と呟いて■■■は指定された店へと向かった。
冥 王からの招集「あのさ、●●●、これも仕事だからさ、行ってくれない?」
「…社長が行けばいいじゃないですか」
「いやー、オレこの後、依頼入ってるからさ」
「は?また父兄参観ですか?」
「…うん」
シャンクスが力なく項垂れる。
今月3回も参観日に行けば、うんざりもするだろう。
ざまぁみろ、ダメ社長め。
「顔しか使える所が無いって困ったものですね」
「今は何言われても構わない。だから行ってくれ」
「…私が?」
「うん」
「レイリーさんのところに?」
「うん」
「この前の報酬のお金を届けに?」
「うん」
「絶対に嫌です」
「もう!そんな我儘ばかり!!」
「だから、社長行けば良いでしょ!」
「はいはいはい!これ社長命令!●●●、張り切って礼儀正しくレイリーさんの所に奉納しに行きなさい!」
「奉納!?」
あの人は神か何かなのか?
「ちくしょう…社長、明日からお茶を飲む時は気をつけろよ」
●●●は黒い顔をしている。
「今は何言われても構わないもぉおおん!」
部下にそんな事を言われ、既に涙目のシャンクス。
「うっせえ!●●●はさっさと行け、頭はさっさと仕事しろ」
ベンの怒号が飛ぶ社内、●●●は渋々社を出た。
シャンクスに手渡されたメモには、場所と時間が震える文字で書かれていた。
ここから指定された場所に行くにはタクシーを使うしかないと、早速タクシーを捕まえて乗った。
運転手に場所を伝えるとすぐに走り出す。
面倒くさい。
とにかく面倒だ。
何故あの恐ろしいじいさんに会わなければならないのだ。
報酬はあのじいさんの口座に振り込めばいいだろう。
窓の外を眺めていれば、歩く人々は穏やかな表情。
羨ましい。
「着きましたよ」
「はい、ありがとうございます」
さっさと報酬を奉納して帰ろう。
「…あれ?」
タクシーから降りて眼前に佇むのは、自分には無縁の『超高級料亭』。
メモに書かれている店の名前と地図と交互に見て確認する。
何度も確認した結果、ここで間違いが無いということが確定した。
「…帰りたい」
「はっはっはっは、ここまで来たなら覚悟を決めたまえ」
冥王が
背後に。
「ちょっとぉおお!いきなり背後から声をかけないでください!心臓が口から出るかと思ったじゃないでしゅか!ヤベ噛んだ!」
「ほら、もう予約してあるから●●●も早く入りなさい」
「ええ!肩に手を回す動作に違和感なくて困るんですけど!予約って何?!あれえ?!」
レイリーにエスコートされて入店。
まさか、これは、
「昼食をご一緒に…ってことですか?」
「そうだ」
無理だろ!
この人と二人きりでランチしたら胃に穴が空いてしまうではないか!
「私とキミと、あともう1人来る予定なんだが」
「…もう1人って社長ですか?」
あの人と3人でなんて勘弁して頂きたい。
「はっはっはっはっは、あいつはまた別の日だ」
笑いながら明るく話しているだけなのに、この恐怖感は何だろう。
●●●は冷や汗を流しながら、案内された部屋に入った。
さて、●●●は来たが、すっかり怯えてしまっているこの反応を見るだけでもとても面白い。
「レイリーさん、私が知ってる人が来るんですか?」
「いや、おそらく知らない」
「そうなんですか?」
向かい合うように座るとますます警戒心を強めて周囲の気配に敏感になっている。
借りてきた猫とはこういうことなのだろうか。
「おじゃましまーす」
雑に扉が開けられると同時に、気力の無い声が部屋に飛び込んだ。
「やあ、■■■」
「お久しぶりです、レイリーさん」
頭を軽く下げて挨拶していると●●●の声が飛び出した。
「…あれ?」
「…あれ?この前のお姉さん」
「…2人は顔見知りか?」
●●●と■■■が互いの姿を見ると予想外の反応を示した。
「あ、はい、この前、ミホークさんのお店で偶然会ったんです」
露骨に安堵の表情になりこちらに話す●●●。
鷹の目の店で会っていたのは初耳だ。
シャンクスとバギーはこの事を知っているのだろうか。
「お姉さん、レイリーさんの友達なの?」
「とんでもない!この人とお友達だなんて恐れ多い!あなたは?」
「レイリーさんは私の働いてる店の常連さん」
「そうなんですか」
「つーかあの後、請求書が来ないんだけど、もう払わなくてもいいのかな?」
「あー、どうなんだろう。ま、次に会ったときにでも聞いてみましょう」
レイリーは2人のやりとりを眺めて優しく微笑む。
この様子ではお互いの素性を知らないようだ。
これは楽しい食事会になるぞ。
「■■■も座りなさい」
「はい。お姉さん、お隣失礼しますよ」
「はいどうぞ」
さあ、食事会が始まった。
「●●●は仕事は大変か?」
「いやー、仕事というか、社長の世話が大変です」
「お姉さん、社長の世話してるの?オシメ変えたりしてんの?」
「いやいやいや!そういう世話じゃないから!」
「はっはっはっは。あいつは変わっているからな」
「変わってるってか、変人ですよね?」
むしろ、まともな人間が居ない気がする…。
「そういうお姉さんは、レイリーさんの行くお店の人なんですよね?」
「そうだよ。常連さんで、結構羽振りの良い買い物してくれるんだよね。くじとかも、新作の度にやってくし。とりあえず、新しい物は何でも買うって人ですね」
「はっはっは。■■■にはそう見えとったのか」
実はコンビニの店員とその常連という関係であると知らない●●●は、どんな店なのかと想像を膨らませている。
「…つかぬ事をお聞きしますが、どんな店なんですか?」
「どんなって…私、ほとんど夜だから昼はどうか分からないけど、まぁ、色んなお客さんが来てくれて楽しいですよ?(この子、コンビニ行ったことないのかな?)」
「へ、へぇ…」
完璧に違う店と勘違いをしているであろう●●●と、それに気づいていない■■■の会話にレイリーは笑みを零す。
「くじって、どんなのがあるんですか?」
「え?そりゃ、色々あるけど、数が多いのはD賞の皿とかF賞のストラップとかかな?あと、ラストワン賞とかはぬいぐるみとかフィギュアがあるよ」
「フィギュア!?(…お店のNo1の子のフィギュアとかかな?)」
「レイリーさん、フィギュアとか珍しくないですよね?」
「そうだな。私もよく貰うからな」
「!!(こ、この人がNo1のフィギュアをぉおおお!?)」
「この間なんて、結構レアなの当てましたもんね?」
「そうだな、あれは自分でも驚いたよ」
「アレ、どうしたんですか?」
「
飾っているぞ」
「飾ってるのぉおおお!?」
●●●は驚きを隠せない。
「お姉さん、フィギュアは飾るものだよ?」
「で、でも!!(No1のフィギュアはないでしょ!?)」
このやりとりが、レイリーは楽しくて仕方がない。
こうして勘違いが行き交う空間に、ようやく食事が運び込まれてきた。
普段目にしない料理が目の前に並べられる。
とりあえず、食べながら歓談をすることにした。
「レイリーさんとはよく食事に行くんですか?」
「よく誘ってくれるんですけど、断ってます」
「何てことを!あなたの進退にも関わってくるでしょうに!」
「そんなに影響力あるんですか、レイリーさんって」
「私はそんな力はないよ」
「
嘘だぁああ!!」
●●●が叫ぶ。
●●●は知っている。
あのシャンクスを笑顔一つで怯えさせる程の権力はあるってことを…
「お姉さんの中で、レイリーさんってどんだけ凄い人なの?何か、神様的な感じになってない?」
「うちの社長は、悪魔より怖い人って言ってましたよ」
「あいつがか?…これはあいつとの次の食事会が楽しみだなぁ」
シャンクスに死亡フラグが立ちました。
●●●は、ナチュラルにシャンクスを潰そうとしている。
勿論、本人に悪気はないのだが…
「悪魔より怖いという恐怖を植え付けてるのか…その社長さんも大変だな。その食事会、ムービーで撮ってきて下さいよ」
「出来たらそうするよ」
ニヤニヤと意地悪く笑いあっている■■■とレイリーは実に楽しそうだ。
●●●は、ようやくシャンクスの立場が危ういと気付いた。
だが、もう遅い。事実、シャンクスはレイリーの事をそう形容したのだから。
「お姉さんは社長の世話してるってことは、秘書なの?」
「いやいや、しがない事務員ですよ」
「事務員が社長の世話するっておかしくない?」
「社員が少ないから仕方ないのよ」
「募集しないの?『社長の世話係』って」
「誰も来ないよそんなの!」
「ヘルパー2級とかあれば大丈夫じゃない?」
「介護!?うちの社長まだ39で健康で落ち着き無いですから!」
「そういえば、セクハラできるくらい元気なんだもんね。介護はいらないか…あれ?じゃあ何を世話してんの?」
「お茶入れたり、コピーとったり」
「それ世話じゃなくて普通の仕事じゃね?」
「あとは社長の喧嘩相手」
「喧嘩すんの?拳で語ってんの?」
「主に口喧嘩」
「トムとジェリーみたいだね」
「それ前に言われたことある…私がジェリーだからね」
「そうなんだ。社長はトムか。仲良く喧嘩しな」
「ねえ、私も聞いていいかな?お姉さんは、指名されることってあるの?」
「指名?え?特にされた覚えは無いけど」
「はっはっはっは、■■■、キミに会うためにわざわざ来る奴らも居るじゃないか」
「え?…ああ、そういや居るな」
「それ大事なお客様だよ!忘れないであげて!」
「お姉さん、それ違う。私の店に来るお客様は皆大事なんだよ、金使ってくれるからね」
「はっはっはっはっは!■■■らしい意見だな」
「指名したからってサービスするわけじゃないしなあ。あ、お姉さんが来たときにはサービスするよ」
「え?いや、私は行く機会が無いと思うけどなあ」
「来たらいいじゃない。サービスするよ、おでんとか」
「おでん!?」
最近のキャバクラはおでんがメニューにあるのかと衝撃を覚え、目を見開いて箸を止めた。
「で、でも私はこれでも一応女だよ?女が行ってもいいの?」
「は?性別なんて関係ないでしょ?オカマさんだって来るよ」
「そうなのか…わかった、行くときは覚悟を決める。でも1人だと不安だから副社長と一緒に行くよ。そしてアナタを指名するから。あ、指名料っていくらくらいなの?」
「無いよそんなもん」
「それはお財布に優しいね!でも必ず指名するからね!アナタをNo1にさせるために!」
「………お姉さん、No1って何の話?」
ここでようやく会話のすれ違いに気づいた■■■が箸を止めた。
「え?アナタをお店のNo1になる為に協力するって話」
「うちの店のNo1は店長だよ」
「美人なお姉さまなの?」
「いや、男だけど」
「男でNo1になれる職場環境なの!?」
「店長が立場的にNo1なものでしょ?」
「キャバクラでのNo1は綺麗なお姉さまでしょ普通は!!」
「……キャバクラ?」
「キャバクラ!!」
「…お姉さん、どうしてキャバクラの話になったの?」
「え?アナタ、キャバクラで働いてるんでしょ?」
「え?」
「え?」
顔を見合わせて首を傾げる。
「…お姉さん、私はキャバクラで働いてないよ」
「え?だってレイリーさんが常連のお店で働いてるって言ってたじゃないですか」
「言ったけど、私はコンビニで働いてるんだよ」
「
24時間営業の店!?」
今までの想像が全て崩れていく音が派手に脳内に鳴り響き身体が揺れるような感覚に襲われた。
この女の子はコンビニの店員で、レイリーさんはそのコンビニに通っていて…。
ゲラゲラ笑っているレイリーは気分が最高に良いらしく昼間から酒を頼み始めた。
「お姉さん面白いなあ。何でキャバクラで働いてるって思ったの?」
「いや、レイリーさんが通ってるって聞いた瞬間に、夜のお店しか浮かばなくて…」
「レイリーさん、このお姉さんの中ではアナタは夜の帝王みたいだよ」
「それは光栄だな」
「何だよもー!!コンビニだったら1人でも行けるよ私!!どこにあるコンビニなの?」
普段から利用する種類の店ならば緊張することもなく1人でおでんも買いに行けるさと断言するとコンビニの場所を教えてもらったその瞬間に更なる衝撃が襲った。
「
赤鼻さんの所!?」
「あれ?知ってるの?」
「知ってるし何回か利用してますけど!」
「もしかして昼間に来てた?私は深夜帯に居るんだよ」
「ああ、じゃあ会わないですね。今度、深夜に行きますから、おでんのサービスをお願いします」
「わかった。はんぺんでいい?」
「え?一品だけなの?」
ようやく食事を再開して箸を進める2人の表情は最初より和やかになっているので、これは話題を膨らませるしかないと感じたレイリーが口を開いた。
「そこのコンビニには、●●●の社長もよく行っているぞ」
「ええ!!うちのダメ社長がですか!?」
身内が迷惑をかけていると思い込んだらしく顔面蒼白になった。
「え?お姉さんの会社の社長?誰?」
「シャンクスっていう顔だけが良いダメなおっさんだよ」
「…あー、シャンクスさんの会社の事務員なんだ。苦労してるね」
「本当に苦労しかしてないよ」
■■■は、●●●を可哀想な目で見ている。
「嫌になったらいつでも気分転換にコンビニに来てよ。店長やウソップくんとか、他の店員にお姉さんのことを話しておくからサービスしてくれるよ」
「いや、そこまでされても…」
「大丈夫だって。シャンクスさんより歓迎するよ」
「それは当然だと思うけど、いいの?私頻繁に行くよ?」
「いいよ。いつも暇してるから来てくれた方が本当にうれしいもん」
「そういうことなら、これから常連になります!なのでサービスしてね」
「はんぺんと大根ね」
「二品に増えた!?」
バギーのお気に入りの■■■と、シャンクスが気に入っている●●●。
この2人をうまく使えばきっと今後の生活が愉快でたまらなくなるはず。
2人だけで会話が進み、それを聞いているだけのレイリーは今後の展開をどのように愉快にしてやろうかと考えていた。
― 後日 コンビニ編 ―
深夜のコンビニは相変わらず暇で、そういえばと■■■はバギーを見て声をかける。
「バギー店長、昨日の昼飯さ、レイリーさんと外で食ったんだよ」
「おお、ようやく行ったのか。どうだった?」
レイリーからの誘いをとうとう断りきれずに行ったのか。どのような会話をしてきたのか興味があるので聞いてみれば、予想外の返答が返ってきた。
「友だちが増えたよ」
「……友だち!?お前にか!?それは人だよな?レイリーさんじゃねえよな?」
「女友だちだよ」
なんと、同性の友だちができたのか!
レイリーさんありがとう。
この子に友だちを作ってくれてありがとう。
「良かったな!友だちが出来たならその人と連絡とって、買い物とか出掛けるんだぞ!同性だから楽しいはずだぞ!!」
「…バギー店長」
「何だ?」
「私、その友だちの連絡先と名前、知らないんだけど、どうしたらいいかな?」
「ヴァッカ!!」
― 後日 赤髪商事編 ―
「ちゃんと行って来たのか?」
「逝って来ましたよ!!」
「字が違うぞ!ってか、どうだった?」
「えっと…私以外の女の子も居て、それがバギーさんとこのバイトさんだった」
「…■■■ちゃんが?3人で食事したのか?良かったな。楽しかったか?」
「■■■ちゃんって云うのか…えっとね、友だちになった」
「名前を今知った時点で友達じゃねぇぞ?」
「良いんですよ!…あ」
「どうした?」
「私、名乗ってないかも!!」
「普通、自己紹介して友だちになるだろうがぁああああッ!」
「おい、頭。冥王から手紙来てるぞ?」
ベンが1通の封筒を持って部屋に入ってくる。
「ベン…
今度は冥王詐欺だ」
「何ですか、それ?」
「●●●、頭はこの間、鷹の目詐欺に遭ったんだ」
「何ですか、その面白い犯罪名は?」
レイリーからの手紙(仮)を読みながら、わなわなしているシャンクスはある1つの仮定を弾き出した
「●●●ちゃん?」
「何ですか、ちゃん付けとか気持ち悪い」
「レイリーさんと薔薇亭に行ったよね?」
「えぇ、薔薇亭ですよ」
「じゃあ、この前は鷹の目の店に行ったの?」
「…あ、尾行のお仕事の後に1回だけ行きましたよ?■■■ちゃんと」
「
迷惑料ってお前らかぁあああ!?」
「…何の話ですか?」
シャンクスが薔薇亭の請求書を見ながら涙している。
「お前と■■■の2人で行った鷹の目の店の請求書が、頭の所に届いたんだ」
「ココに出したの?ミポリン…お金払う前に追い出されたから、心配してたんですよねぇ」
「
おれが払ってやったんだよ、バァーカッ!!」
「社長に払ってくれなんて一言も云ってませんー!」
「もう何なのこの子!?」
トムとジェリーが仲良く喧嘩をしている間、ベンは1人“コーラのテイクアウトはどちらがしたのだろうか?”と考えていた。
END
2014.11.27.
【作成者】
ふゆやすみ:まんまる
日常茶飯事:憂
― あとがき ―日常茶飯事:憂
コラボ小説・第2作目という事で、前回の話から若干繋がっている部分もあって楽しく描けました。今回のツボポイントは“冥王詐欺”です。また、コラボ出来たら良いなと思っています。本当にありがとうございました。そして、ここまで読んで下さってありがとうございました。
ふゆやすみ:まんまる
再びコラボしていただきありがとうございます。このまま定期的にコラボしていければとても嬉しいです。今後も各々のサイトの活動を頑張りましょう。この小説を読んでくださった皆様に深く御礼申し上げます。今後ともよろしくお願いします。
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