11 居眠り常習犯


「幸村ァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「やだーツバキちゃんこわーい」
「ほんとになー、地獄の官吏も真っ青だな」
「待てごらぁあああああああああああああああああああああ!!!! 桜庭ァ! お前も今日という今日は覚悟しろよ! いつもいつも幸村にいらん手助けしやがって!!!」

怒涛の怒号が聞こえたので、のそりと頭を上げると、俺の中では最早名物になってる三人が教室の外を爆走していった。

「ツバキちゃんってばキャラが崩れてるよー?」
「せっかくどこかの味覚崩壊小隊長みたいな生真面目優等生キャラで通ってるのに、チンピラみたいになってんぞー?」
「誰のせいだと……っ、うおわああああああ!?」

ガッと何かがつまづく音、椿原さんの悲鳴、どたーんと派手に転げる音がした。

「ハナダ、シオン、だんけっしぇん!」
「二人共さんくす。ナイスプレー」
「おーともよ」
「お二人さんもがんばってねー」
「小金井、齋藤……お前らもか……」

大方曲がり角で待ち構えていたハナダ先輩とシオン先輩がロープか何かを張って椿原さんを引っ掛けたのだろう。その間にユキ先輩もアサギ先輩も、マサラ先輩辺りが開けてくれた窓から脱出してると思われる。あとは椿原さんにクチバ先輩のお菓子(試作品、試食は命懸け)もしくはトキワ先輩の雑用押し付けという追撃がなければ椿原さんにとっては幸運な方だ。なんだ、いつものことか。そこまで判断した俺は再び机に突っ伏した。

「起きろ居眠り駄犬」

起こされた。ホウキの柄で脳天どつかれた。

「……容赦ないな三上、燻辺」
「掃除の邪魔。ゴーホーム」
「城戸くん五時間目からずっと寝てましたが、まだ寝やがるつもりですか。もう放課後ですよ」
「睡眠は俺の命」
「城戸くんキャラ違ってません?」
「これがきっと俺の本来のキャラなんだよ」
「家に帰ってから寝て。永遠に」

再びのホウキ脳天突き。
さすがにこれ以上は俺のシナプスが心配になったので、俺は諦めてカバンを引っ掴んで教室を後にした。ふわあ、と大きな欠伸が出る。写真部の部室に行って寝よう。あそこ日当たりいいし。



「やーシロ、昨日ぶり!」
「…………ルート選択間違った」

さっきの俺は眠気で思考回路がおかしくなっていたらしい。写真部の部室には、この誰の得にもならないようなことが大好きな先輩方がおわしましやがるのに。静かにゆっくり寝れるはずがないじゃないか。

「眠そうだな、山吹」
「ほんとだー、シロがパンダと遭遇したアライグマみたいな顔してる」
「意味わかんねっす」
「徹夜で宿題でもしたのか?」
「そんな、ユキ先輩じゃないんですから」
「僕宿題のために徹夜したりしないけど」
「ああ、そうでしたね……」

しれっと言い放ったユキ先輩に脱力する。そして宿題放置してぐっすり寝て次の日先生に拳骨食らうんですね、わかります。

「で、どしたのシロ。恋煩い?」
「ちげーよ」
「おお、眠気のせいか知らんが常々崩壊しつつあった山吹の敬語が吹っ飛んだ」
「……ちょっと気にかかることがあって。寝付けなかっただけです」
「へー」
「先輩から聞いてきたくせに反応薄くないですか。ひどくないっすか」
「まあ今日からテスト返却始まるしなー、学生にとっては気がかりだよな」

あんたらはまったく歯牙にもかけそうにないですね、とは言わなかった。
確かに自分の成績も心配だが(何しろユキ先輩の散々な数学力を改善するために決して少なくない時間を費やしたのだ)、その結果ユキ先輩の数学の点数が10点に届いたか否か、それだけが問題なのだ。進学校のせいかは知らないが、うちの学校は文系の三年だろうが毎日数学がある。つまり今日はもうテストが返ってきているはずなのだ。

「ユキ先輩、」
「なにー?」
「数学何点でした?」
「まだ返ってきてないよー」
「ゑっ」
「『ごめーんまだ採点終わってねーわー』って柴田先生が」
「柴田ちゃん適当だよなー」

本日二度目の脱力。知らぬ間に身構えていたらしい体がぐらっと揺れるのがわかった。ネット上でよく見かける某アスキーアートの姿勢を取りたくなる。

「だからいつも通りよく寝たよー」
「接続詞の使い方知ってるかユキくん。君はテスト返却中でも寝てるだろ」
「だって眠いんだもん。アサギくんもいつでも絵描いてるかぼーっとしてるかだから、おあいこだよ」
「そんなんだから椿原にまた追い回されることになるんだよ」
「あれ、アサギくんも怒るです?」
「いいや全く。ちっとも。微塵も。これっぽっちも。むしろあそこまで盛大に人が転げる様を見れてゆか……爽快だった」
「アサギ先輩今愉快って言おうとしませんでした?」

あと言い直してもあまり取り繕えてないですよそのSっ気。
そうか、さっきの逃走劇はそれが原因か。

「でもユキ先輩、家で寝てるのに学校でも寝るんすか?」
「え?」
「だってさっき、宿題で徹夜したりしないって」
「徹夜とは宿題のためにするものじゃなくて、ゲームのためにするものだよ」
「いっぺん3DS逆パカされて来てください」
「だが断る」

そういえばこの先輩、堂々とサボって保健室で寝る人だった。出席しただけマシなのか。
俺は隠すこともなく頭を抱えた。



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