ちょっと、目をつむってくれないか? なんて部屋で二人きりの状態で言われたら誰だって期待してしまうものだろう。 実際に僕は多少なりともしていた。 だって彼が後ろめたそうに恥ずかしそうに言うのだから、これは何かあると思わざるを得ないだろう。
目を閉じたときほの暗い世界に彼のごめん、と言う声が響いた。 なぜ謝るのだろうと驚く間もなくひやりとした何かが僕の頬に触れる。 それが彼の手だと気がつくまでにほとんど時間はいらなかった。 形を確かめるように愛撫するように触るものだから勘違いしそうになる。 まず、指先で頬のラインをなぞり、唇をくすぐり、まつげをそっとつまむ。
「古泉ってまつげ、長いんだな。日に当たってきらきらしてる」 「ありがとうございます」
目を開けずに返事をする。 彼の表情は伺えないが、不快に思っているわけではないらしい。それだけで心の奥があたたかくなる。 しばらく彼の手が離れお互いに何も話さない静かな時間が続いた。 視線が刺さると感じるのは彼がまだ目の前にいるからなのだろう。
ふと衣擦れの音がしたかと思うといきなりわき腹をくすぐられた。
「わ、ちょっと待ってください!」
びっくりして目を開ける。 いきなりはひどいですよ、とくすぐったさからくる笑いとともに情けない声になってしまった。 幼い頃から、わき腹をくすぐられるのには弱かった。 そのことを知っていたのだろうか、と少し慌てる。 彼はそんな僕に微笑んだ。 ……僕の顔に微笑んだのだ。
まだ彼の指は僕の心には届きそうにない。その日までゆっくりと待つことにしよう。
恋愛ごっこ
20100222
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