「てなことがあったんだ何あの子たち超可愛い」
「はいはい自重」
「冷たいぞ、八!」

話があるんだと神妙な面持ちで夕方のファーストフードに誘われたかと思えばそんなことかよ。通常運転な妹自慢を時計が二回りする程に長々と聞かされ、竹谷はげんなりとした顔で頼んだ炭酸飲料を啜った。
わあっと顔を覆い叫ぶ友人を適当にあしらい、未だにメニューで悩み続けている不破をちらりと見ると、彼女はよし、と拳を握って財布を手にした。
どうやらやっと頼むメニューが決まったようだ。レジの前で再び彼女が悩みださないためにも、鉢屋の話しから逃れるためにもついていこうと竹谷が声をかけるよりも先に久々知が付き添うと立ち上がる。先を越された。鉢屋の妹自慢にうんざりしているのは自分だけではなかったのだ。
買ってくるねと席を後にした不破と久々知を見送り、残されたのはシスコン兄貴と後輩溺愛尾浜と竹谷のみであり。どう足掻こうが逃れられない状況に顔を引き攣らせてストローを齧った。

「可哀想に庄ちゃん…!鉢屋のひねくれて曲がって素直じゃないとこが似ちゃったまま生まれ変わっちゃったなんて!鉢屋のせいで!」
「勘、お前、俺が嫌いだろう」
「何を今更」

きらきらとした顔で言ってのける尾浜は相変わらず何を考えているのか読めない。本心では鉢屋を嫌ってなどいないだろうが、口では正反対な事ばかり言う。鉢屋からしたら昔から(それこそ室町から)、らしいけど。
そんな記憶を持ち合わせていない竹谷からしたら、やはり尾浜は考えが全く読めない奴だった。それは鉢屋も変わらないのだが。
そんなつまらないことよりも。

「アレだろ、三郎の言うプリンって、中等部の食堂で一、二を争うレアもんプリンだろ?いいなー俺も食ったことないのに」
「俺達の代は七松先輩という名のラスボスがいたからな」
「…あれには勝てねぇよ…」
「美味しいのに一日一個しか作らないんだよね、たしか。……学園長の気まぐれで」
「食いたいなら争えとか言ってたっけ、学園長」

いつも思うが、うちの学園長は何かおかしい。争えとか、化け物相手に無理言うな。
最大の敵である七松が高等部へいっても、中等部へプリンを掻っ攫いにわざわざ校舎の違う高等部からやってきたので結局竹谷たちの代はプリンを拝めることは最後までなかった。化け物は甘いものがお気に入りだったらしい。
噂ではプリンを気に入った後輩にあげていたというのも聞いたが。今となってはどうでもいいことである。

「甘いの大好きな彦四郎に食べさせたかったんだなあ、ひねくれててもやっぱり庄ちゃんかわいー」
「今は彦四郎じゃないぞ、ちゃんと女の子らしい可愛い名前だ」
「五月蠅いシスコン、可愛い後輩独り占めしやがって。これで庄ちゃんも弟にしてたらおまえころしてた」
「因みに妃子ちゃんの名付け親は俺だ!羨ましかろう!」
「しね」

笑顔の尾浜の目は本気だった。かんちゃんこわい。
思わず体を震わせたのは許してもらいたい。

「あの子昔から可愛かったけど、女の子になってからは更に可愛さが増して、悪い狼に食われやしないか兄ちゃんは心配で心配で…」
「庄ちゃんは悪い狼じゃないし。天使だし」
「お前なんぞに言われずともわかってるわボケ。けどその内殺意が沸きそうで…ああうちの妹本当に可愛い」
「三郎お前それシスコンってレベルじゃねえよ、こええよ」

訂正。
勘ちゃんだけじゃない、こいつらこわい。







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