(12.07.21)
(次富と竹孫)
毒蛇を一等愛する同級生に、どこへいくんだと声を掛けられれば、次屋は首を傾げてあっち、と目の前を指差す。 指す先にはなぁんにもなくて、ただ、木で溢れる森しかなかった。 伊賀崎は眉を寄せて、首に巻きつく愛蛇を撫でる。
「学園はそっちじゃあないぞ」
「知ってる」
「富松がお前を探していた」
「それも、知ってる」
「……ここでお前を逃がすと、僕が富松に怒鳴られて面倒だし腹が立つんだが」
「うん、だろうね。ほんと、伊賀崎と作兵衛は仲悪いのな」
「ああいう暑苦しい奴は苦手なんだ」
「竹谷先輩は平気なくせに」
「うるさい」
だいたい、あの人は、富松と同じような熱血に見えて実は冷めているところもある。生き物の死には冷静で、冷徹だ。それは動物に対してであっても、人間に対しても。死を平等に、生を平等に扱う。 そんな優しさの中に隠れた刺を持つ竹谷を、伊賀崎はほんの少しだけ受け入れていた。 同級の誰にも心を開かなかった伊賀崎が変わったものだと、富松と浦風が話していたのを思い出した。 けれどきっと、根本はなんにも変わっちゃあいない。今も昔も、伊賀崎は毒を持つ生き物にしか興味がないのだから。 そして形は違えど、同じようなのだ。
「……また、富松は怒るし、泣くぞ」
「うん、結構、泣き虫だし。強がるくせにな。ほんと、さくべ可愛いわ」
「そうしてわざと迷うのか。悪趣味だ」
「でも、迷わなくても、作兵衛は泣くよ?」
取り得もない、劣等感しか持たない彼は、いつもおかしな妄想を繰り返しては膝を抱えて泣いている。 けれど、迷子の次屋や神崎を探す時だけは、そうならなくて。縋る誰かが欲しい富松は、次屋と神崎を探す時だけは劣等感を忘れられた。 自分がいなければ何も二人は出来ないのだと、思い込むことが出来た。
単純で、馬鹿な作兵衛と次屋は笑うけれど、伊賀崎はそんな次屋に嫌悪の目を向ける。
「縋られることが幸せか。反吐が出る」
「生死でしか物事を考えられないお前に、言われたかねぇよ」
なるほど、どちらも反吐が出るな。 伊賀崎は、それはもう、美しく笑みを浮かべた。そうして次屋は森へ目を向けると、ひらひらと手を振って森の中へ消えていった。 愛する蛇に口付けを落とし、伊賀崎は遠くで次屋を探す声を聞いた。
次屋と神埼が迷う限り、富松が探すかぎり、富松はきっと泣かずにいられるだろう。 けれどたとえば神崎の迷い癖が治れば。 たとえばわざと迷う次屋が事故で命を失ってしまったら。
「縋るものがなくなったときが、見物だな」
笑う声は木々の声にかき消された。
--- 次屋と孫兵あんま仲良くない 似たようなの小ネタで書いた気が
|