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(12.02.11)


(木←勘と竹谷)





 先生、先生、好きだよ。

言葉にするのは思ったよりも簡単だった。
ただ、その言葉を口にするたびに想い人は寄った眉間の皺をさらに寄せて、阿呆と殴るから。言葉にしてはいけないものなのだと知った。
もったいないと思う。だって人間は言葉を話せるのに。行動でしか愛を示せない動物とは違って、人間は、言葉で、行動で、愛を伝えられるのに。
それがいけないことだなんて。もったいない。


「でもさあ、動物は、全身で伝えるからすごいと思うよ、俺は」


 言葉は簡単だけどあやふやだから。
生き物を一等愛す友人はけらけらとなんでもないように笑った。

あやふや、かあ。そんなものかな。そんな、ものだな。
だって人間は簡単に言葉を話す、簡単に、嘘をつく。あやふや。なるほど言えている。得てして人間は嘘つきな生き物だ。
だからきっと木下に、この言葉を信じてはもらえないのだろう。それだけではない。人間は賢く愚かであるから、しがらみから抜け出せないのだ。
全く愚かである。そんな覚悟はとうにした上で、尾浜は木下に愛を伝えているというのに。気づきやしない。いや、愚かは自分かと、気付いて、はあと尾浜は寝転がる。
ごつんと頭に当たった床が冷たくて痛かった。


「たとえばおれが、犬や猫だったらさ、先生はおれを好きになってくれたかな」

「まず、そうだったら、先生に会えてはないと思うけど」

「あーそっかあ、それはやだなあ」


 わかんないや。人間ってむつかしい。
むう、と唸る尾浜に、竹谷は笑って、だから貴いのだろうと言った。