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(12.02.03)


成長







 笹山兵太夫は常に強気で我が儘という言葉がぴったりの人間だ。けれどそんな彼も金吾には泣いてる印象が強かった。
ちいさな子どものようにわんわんと泣くこともあれば、歯を食いしばって嗚咽を漏らしたり。兵太夫はいつも泣いている。
 そんなわけないじゃん、兵ちゃん強い子だし。今日も今日とて、からくりの餌食になっただろう団蔵は、青い顔で首を振っていた。
彼の一番の友人である三治郎には、一瞬、苦い顔をして(常に笑顔を張り付けている三治郎にしてはめずらしく)、金吾のそういうとこちょっと嫌いと言われた。わけがわからない。

 そして今日も兵太夫は泣いていた。兵ちゃんがいなくなったの探して金吾と三治郎に言われていつも彼を一番はじめに見つけるのは金吾だ。
膝を抱えて、声を圧し殺して、小さな肩を更に小さくして兵太夫は泣いていた。その姿は強気な彼とは結びつかなくて、やっぱり金吾には兵太夫は泣き虫な印象が強い。

「……兵」
「っ、ぅ……」

 目の間に胡座をかく。こういうときは長期戦なのだ。頭をぽんぽんと軽く撫でれば、ちいさく肩を震わせた。正しい慰め方など知らない金吾はいつもこうして頭を撫でて、兵太夫が泣き止むまでそばにいた。
きっと友人の三治郎や、優しい乱太郎や伊助、頭のいい庄左ヱ門なら、もっといい、正しい慰め方で兵太夫を慰めるのだろうけど。金吾はどうしたらいいかなんかわからない。わからないから、手を伸ばして、子どもみたいに泣きじゃくる兵太夫をぎゅうっと抱き締めた。

 人間は抱き締められると安心するんだと苦しいぐらいに抱き締めてくれたのは、一年の頃の体育委員長だ。
彼のやることははちゃめちゃではあったけれど、適当な言葉も他人を傷付ける言葉をいう人ではなかった。だから、きっと、これが金吾ができる一番良い慰め方で。抵抗もなくすがるようにしがみついて泣く兵太夫を見たら、これでよかったのだと思う。
ほろほろと止まることを忘れたような兵太夫の瞳から零れる涙を見て、昔は泣き虫といじられてたのは自分だったのになと、心の中で苦笑が漏らした。
やっぱり兵太夫は泣いてる姿が一番強くて、その次は、泣きはらした真っ赤な目を反らしてごめんありがとうと照れくさそうに言う姿だった。