■八月九日


「君、群れすぎ」
沢田の帰宅後、へらへらと笑った顔しか見せたことのないような背の高い彼が、水飲み場にやって来た所に声をかけた。
「いい加減、あの子に近づくのやめて欲しいんだけど」
「あの子って・・・ツナのことか?」
彼は暫くきょとんとして僕を見ていたが、やがて楽しそうに笑い出した。
「何だよそれじゃ、ツナがお前のモノ見たいじゃん。恋人かなんか?」
みたい、ではないし、そこは笑うところではない。
暫くへらへらしていた彼はやがて、不機嫌な顔を崩すことのない僕に気付いて、気まずそうに鼻の頭をかいた。
「あーまあ、それはないよな。だってツナは笹川が好きなんだし」

どくん、と一つ心臓が大きな音を立てた。
悪気のなさそうな言い方に、内臓が抉られる様だった。

遠くから名前を呼ばれ、彼が去った後も、僕はその場に立ち竦んでいた。

そんなことは知っている。
あの子は態度に出やすいのだ。
知っていて、気付かぬ振りをしていただけだ。


聞きたくなんてなかった・・・。








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