■八月十日


どうという事はないのだ。
沢田があの女に思いを寄せていることは判っていたし、だからと言って今更僕の気持ちがどう変わる訳でもない。
だが何処となく気落ちした感じが態度にでも出ていたのだろうか、キスの後沢田は僕の顔をじっと見つめて、「大丈夫、ですか?」と尋ねた。
鈍いくせに、変なところは敏感だ。
別に、と答えて目を逸らすと、少しの間僕の横顔を見つめてからおもむろに両手を差し出してきた。
髪に彼の柔らかい指を感じたと思ったら、そのまま僕は頭を抱えられる形になった。
「こういう風にするの、そう言えば久しぶりですよね」
僕が姿勢を低くしていないので、抱きかかえるというよりも抱きついているといった感はあったが、それでもあやされている様な雰囲気だ。
ひどく子ども扱いをされているのに不思議と腹は立たなかった。




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