■八月三日


短いながらも穏やかな時間を過ごし、また明日という挨拶とともに沢田は応接室を出て行った。
今の僕たちの関係は実に安定していると思う。
最もこれも、キスだけで我慢している僕の忍耐力によるものとも言えるが。
まあ欲を言えば、それ以上の事をしてみたくない訳ではない。
というか、舐め回したい。
しかし、今の僕にとっては、それは大して強い欲求とはなっていないのだ。
沢田が僕の側にいて、笑いかけてくれる。それだけで何故か、心の奥が暖かくなる。
安定しているとは、そういう事だ。
一つには、夏休み期間のために、彼が群れているところを見ずに済む事もあるのかも知れない。
このまま二人だけでいられたら、どんなに良いだろう。

窓の外を見れば、ちょうど沢田が校舎から出て行くところだった。
とてとてと子供のような足取りの後姿を微笑ましく見ていると、急にこちらを振り返った。
いや違う・・・あの子が見ているのは僕ではなく・・・野球部の、ユニフォーム。
彼を呼び止めたのはいつも沢田の側にいる、背の高い野球少年だった。
夏休みの間も、野球部は部活の練習があるのだ。

沢田は楽しそうに笑っていた。

僕の胸にはまた、ざわざわと嫌なものが広がっていった。




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