■八月一日


控えめなノックの音に胸が高鳴った。
「どうぞ」と入室を促すと、そっと扉が開き、ふわふわの茶色い頭が覗いた。
「お仕事中、すみません」
「うん・・・突っ立ってないで、座れば?」
沢田をソファーに座らせると、僕は温めておいたティーカップに紅茶を注ぎ、彼の前に置いた。
ほぼ予想していた時間通りに来てくれたおかげで、紅茶も温かいままだ。
沢田はそれに疑問を抱く様子もなく、ふうふうと冷ましながらカップに口をつけた。
「突然来てすみません。今朝急に担任から、補講を受けに来るように電話があって・・・」
朝一で職員室に足を運んだ甲斐があった。
今日から一ヶ月間、午前中はしっかり補講を受けてもらう。
宿題も見てやる様に教師に言ってあるから、赤ん坊も文句はないはずだ。
午後は僕も校外の見回りやら何やらで外に出ることが多いので、補講の終わる十時半から昼まで、短くはあるがその時間は彼を独占させてもらう。
「ディーノさん、昨日帰りました。ヒバリさんによろしくって、言ってましたよ」
あんなのによろしくされる覚えはない。
沢田はニコニコと嬉しそうに何処に出かけただの何をしただのと話し始めたので、出来るだけ柔らかくそれを制し、隣に座りながら顔を覗き込んだ。
「・・・アイツと、お風呂入ったの?」
しまった、単刀直入すぎたと思った時にはすでに遅く、沢田はきょとんとして首を傾げた。
「えと、ランボを毎日入れてくれてましたけど・・・?」
俺サイズでも、大人二人じゃ狭いですからねと笑う沢田に、ほっと胸を撫で下ろす。
莫迦らしいことだが、ずっと胸につかえていたのだ。
最も、あれに背中を洗わせる所を想像してムカついたのは始めの内だけで、途中からあの外人の存在は消え去り、僕の頭の中には沢田一人しか残らなかった。
想像上の沢田がふわふわに泡立てたシャボンをまとい、素手で自分の身体を撫で始めると、自然に身体があつくなり、気付けば僕の雄はしっかり反応していた。
そんな自分に驚いたが、同時に安堵したのも事実である。
自分の沢田を見る目に、性的なものがあったことは自覚していたが、だからと言って同性相手に体が反応するのかどうかは疑わしかったのだ。
「・・・ヒバリさん?」
気付けば、黙り込んでしまった僕を沢田が心配そうに覗き込んでいた。
僕は優しく微笑みかけて、唇を近づけた。







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