■七月二十一日


明日から夏休みが始まる。
今日は終業式があるだけなので、三時限で学校が終わる。
沢田は下校のチャイムと共に、応接室にやって来る筈だった。
そうしたら・・・そうだ、折角だから仕出しをもう一つ用意させて一緒に食べる事にしようか。それとも、たまには近くの喫茶店へ食べに行くのもいい。
先に言っておくが、僕は昨日の「お父さん」発言を気にしてはいない。
そもそも元から彼はそう言い張っていたのだし、本当に「お父さん」とそんな事をする趣味があるとも思えない。
沢田は気付いていないだけだ。
そのうち僕のことしか見えなくなって、自分の気持ちに気付く日が来るだろう。
そうさせるだけの自信はあった。

だから、全く焦ってはいなかったのだ。

HRが終わり、沢田は息を切らせて応接室に駆け込んできた。
「廊下は走るなって、言っただろう?」
いくら僕に会いたかったからって、という言葉は飲み込んで、ソファーに座るように促した。すると。
「御免なさいヒバリさん、俺今日もう帰らなきゃ」
「・・・また赤ん坊に何か言われてるの?」
不機嫌を隠さずそう訊ねた途端、バタンと大きな音を立ててドアが開き、大きな物体が側に立っていた沢田に覆い被さって来て、そのまま一緒に床に倒れこんだ。
「ワリーツナ、勢いつけすぎた!」
はははと軽薄そうな笑いを漏らしたのは、かつて僕に戦闘を挑んで来た(家庭教師とか言っていたが、そんなものをつけた覚えは無い)外人だった。
「もー、だから校門で待っててくださいって言ったのに〜」
口を尖らして起き上がる沢田の口調は、言葉とは裏腹にどこか嬉しそうだった。
気に入らない。
しかも校門に待たせていたということは、沢田が今日すぐに帰る理由はこの男にあるということだろう。
むかむかと嫌な気持ちが込み上げてくる。
「お、雲雀〜、久しぶり!元気そうだな!」
相変わらず頭の悪そうな笑顔を見せながら僕に挨拶をすると、沢田の方に向き直った。
「ごめんなツナ、道案内なんかさせて。なんか用事あったんだろ?」
「あ、いいですよ!今日終業式なんでもう特に用も無いし」
あるだろう用事!
確かに今日はもう仕事は無いとは言ってあったけど、仕事以外にもいろいろと!
「ディーノさん日本に遊びに来てて、今日から一週間くらいうちに泊まるんです」
だから、ごめんなさいと申し訳なさそうな顔をする沢田の腕を金髪男が掴み、「邪魔したな!」と応接室を出ようとしたので、僕はあわててデスクから立ち上がり沢田の空いている方の手を握った。
「そいつ、何なの。しょっちゅう現れて」
できる限り平静を装い言うと、沢田はちょっと考えてから、
「まあ・・・ディーノさん、お兄さんみたいなものですから・・・」

・・・おにいさん。

後頭部を殴られたような気がした。
僕がお兄さんでなくお父さんなのは、こいつのせいなのか。
あまりのショックに握っていた手を緩めると、金髪はそのまま沢田を連れて消えてしまった。

途方もない敗北感が僕の中を渦巻き、そこから立ち直った時には、すでに沢田の姿はなく、

夏休みも来るようにと、言いそびれたことに気が付いた。





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