■七月十五日


「君は、僕の感じているものが性欲ではないと思うの?」

放課後やって来た沢田が仕事を終え、何か言いたげにしながらも応接室を出た後、報告書を持ってきた草壁に、前置きも無く聞いた。
今朝学校に来て何気なく目を通した日誌。その昨日のページに書いてあった彼の一言が、ずっと僕の頭に引っ掛かっていた。

草壁は驚いたように僕を見たが、すぐにいつもの顔に戻り、報告書を机に置いて前に立った。
「性欲でない、と言っている訳ではありません」
彼は真剣な面持ちで僕を見ていた。
「しかし、それ以外の気持ちから、委員長は目を逸らそうとしている様に思います」
「それ以外の、気持ち?」
草壁は重々しく頷いた。
「もしも感じているのが性欲だけであるなら、委員長はその欲求の赴くままに行動していらっしゃるのではないでしょうか。それをわざわざ、抑えるようにしているのは何故ですか?」
僕は何も返せなかった。
その答えは、今でも見つからないままだからだ。
「沢田の事を、大事にしたいと思っていらっしゃるんでしょう?」
「そんなんじゃない・・・ただ、あの子が傷つくのを見たくないだけで」
「それなら」
草壁は、そのいかつい顔つきに不釣合いなまでに、優しく微笑んだ。
「自らを抑えてまで沢田の事を考えてやっているのは、彼が好きだから、なのですよ」
「・・・」

すき・・・好き?
まさか。
僕が?あの子を?

群れを成して歩く奴らが口々に囁くそのくだらない言葉を、まさか自分のこととして考える事になるとは、思っても見なかった。
でも・・・。
僕は、沢田が、好き。
そう言われれば、確かにしっくり来る。その感情の名前は。

いつの間にか草壁が部屋を出て行ったのにも気付かず、僕は暫くその言葉を反芻していた。




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