■七月二十九日


確かにこの一週間、僕の機嫌は悪かったと思う。
草壁は必要最低限でしか接触しようとはしなかったし、校外の見回り中咬み殺した群れの数は今までの三倍に上っていた。
不機嫌の理由など決まっている。あの図々しい金髪だ。

何故僕が「お父さん」であれが「お兄さん」なのだ。

・・・今一瞬、問題点が違うような気もしたが、まあいい。
沢田の「お兄さん」発言にショックを受け、今まで僕らしくもなく行動も起こさずに待ってしまったが、冷静に考えるとこちらが引く必要など何もない。
おとなしくあの外人の側になど置いておくものか。

ここの所仕事も手に付かず、今日の分もまだ残ったままではあるが。
七時ちょっと前。
顔を見て話をして、戻ってから片付けても特に問題はないだろう。

夏とはいえこの時間になればあたりはもう真っ暗だ。そんな中、沢田家に到着した僕は二階で一つだけ明かりの灯っていた彼の部屋の窓を叩いた。
部屋にいたのは沢田一人だった。
「雲雀さん!」
彼は一瞬驚いた様子を見せたが、慌てて窓を開け、僕を招き入れた。
僕は窓枠に足をかけ部屋の中に入り込むと、そのまま沢田の腕を掴み一週間ぶりのキスをした。
始めは触れるだけの、そして何度か啄ばむ様にした後、味わうように深く。
会えなかった一週間を埋めるように深く舌を絡ませると、彼の舌もおずおずとそれに答えてくれる。
ああ彼の口腔はこんなにも甘かったっけと思いながら存分に堪能し、それでも名残惜しさを感じながら唇を離した頃には、真っ赤な顔で目元を潤ませた沢田は息も絶え絶えといった様子だった。
「ねえ、あいつ帰ったの?」
焦点が合わない感じだった沢田もやがて僕の言葉を理解し始めたのか、口を動かした。
「日曜日の夕方に帰るって言ってました・・・終業式の日、帰っちゃって御免なさい」
そう素直に出られると何も言えない。
というか、沢田に対しての文句はないのだが。
「・・・風紀委員は、夏休みも普段通り登校してるんだ」
我ながら、なんと歯切れの悪い言い方だ。僕らしくもない。
「来る?」
一瞬沢田の顔がぱっと明るくなったが、すぐに曇り、
「ディーノさんが帰ったら、すぐ宿題なんです。終わるまで外に出さないって、リボーンが・・・」
何故にこう邪魔する奴らが多いのか。
擬音が聴こえそうな位にしゅんとしてしまった沢田の頭に手を置いて、考えた。
「・・・なら・・・」
「ツナー!晩御飯できたぞー!」
叫び声と共に階段を駆け上がる音。あの牛の子供だ。
「ツナ、さめるー!」
僕はとっさに身を翻し、窓の外に出てしまった。
よく考えると、逃げる必要などない。
しかしやはりあの餓鬼はどうも苦手だ。
急に騒がしくなった二階の部屋を、家の外から睨んだ。
「ツナ、夕食だってよ」
どうやらあの外人も上がってきたらしい。面倒なことになるのはごめんだ。
また出直そうと背を向けると、背中から軽薄そうな声が聞こえた。

「飯食ったら、一緒に風呂入ろうぜ!」

そっと振り返ると、二階の明かりはもう消えていた。
僕は放心したまま、暫く暗くなった窓を見ていた。








prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -