■七月十一日


昼休み、沢田はいつものように弁当を抱えて応接室に来た。
休みの間中、彼がまたやって来るだろうかとそればかりを考えていたので、顔を見て安心はしたが、かつてのようなおどおどとした態度に苦い思いが込み上げた。
ここに来ることが、彼の負担になっているのではないだろうか。
それならば・・・。
・・・いや、無理だ。いまさら彼を手放すなんて、できるはずが無い。
すっと伸ばした手に沢田が身構える。
僕は一瞬だけ手を止めたが、そのまま彼の髪に触れ、少し乱暴にそのふわふわした髪を掻き回した。
「え、え?何ですか?」
驚いて一歩後退する沢田を追う様に一歩進むと、もっと大きく掻き回す。
「って、止めてください!ぐしゃぐしゃになっちゃうじゃないですか!」
「もとからでしょ」
「違います!これでも朝整えて来てるんです!」
「ワオ、それでもあんななんだ」
「ひど!」
口調こそ攻めているようではあったが、沢田の表情は先ほどとは打って変わって晴れやかであった。

この子には、こういう顔をしていて欲しい。

「今日のメニューは何?」
突然髪から手を離し、横から覗き込むようにして尋ねると、嬉しそうに弁当の説明をし始めた。

これでいい。
彼が笑っていてくれるのなら、それで。




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