■六月二十四日


早朝の風紀検査に立ちとぼとぼと歩いてくる沢田を見つけた僕は、すぐさま彼を拉致し応接室に引っ張っていった。
昨日のやり取りの後放心状態になってしまった僕は、不覚にも沢田に逃げられてしまい、あの続きを聞こうと待っていたのだ。
部屋に入って扉を閉め彼を振り返ると、俯いてひどく怯えた様子だった。
少しむっとして眉をひそめたが、気を落ち着けてなるべく優しく彼に聞いた。
「昨日の、お父さんになりたいって、どういうこと?」
沢田は俯いたままで黙っていた。
僕も無言で彼を見下ろしたまま、彼の言葉を待った。
長い時間が過ぎたような気がし、ようやく沢田がのろのろと顔を上げた。
「雲雀さん、俺、自分でも凄く変だと思うんですけど・・・」
「うん」
「雲雀さんのこと、ぎゅってしたい・・・」
僕は驚いて目を見開いた。そんなことを言われるとは思わなかったから。
何も言えずにいると沢田はまたすっと目を逸らした。
「御免なさい、変なこと・・・「いいよ」
僕は沢田の言葉を遮って続けた。「どういう風にしたらいい?」
彼は少し戸惑ったそぶりを見せたが、視線を落としたまま小声で言った。
「じゃあ・・・少し屈んで貰えると・・・」
「了解」
僕が少し腰を曲げると、沢田は恐る恐る僕の髪に触れ、ぎゅっと頭を抱え込んだ。
頭を抱きしめながら髪を撫でるしぐさは、確かに親が子供にするようだと、ひそかに苦笑した。
沢田の鎖骨辺りからは、柔らかないい匂いがした。
その心地よさを感じているうちに、僕はある企みを思いついた。
「ねえ、僕も君にしたい事あるんだけど」
頭を抱きかかえられたまま言うと、沢田は僕を離して、何ですかと聞いた。
僕はにやりと笑みを浮かべ、彼の耳に顔を寄せた。
「キス、したい」
耳元で囁くと、ぼんっと音でも出しそうに沢田の顔が赤くなった。
この子の狼狽振りは非常に分かりやすい。
「ダメ?」
顔を接近させてねだるように言うと、彼は再び目を逸らして真っ赤な顔で呟いた。
「ダメじゃ、ない、デス・・・」
可愛い。
初めて、素直にそう思った。しかも、男相手にだ。
僕は俯いてしまった沢田の両頬を優しく包んで上を向かせ、その唇にキスを落とした。
何度も何度も、角度を変えて、啄ばむようにキスをする。
そのたびに沢田はぴくっぴくっと震えた。
小動物みたいだと思い、薄く笑いながら見つめると、沢田は恐る恐る片目を開いた。
「お兄さんは、却下だったんだ?」
沢田は何を言っているのか判らないらしく、首を傾げた。
覚えていないのだろうか。まあ、それでもいいけど。
「また、今までみたいに毎日おいで・・・」
耳元に囁くと、彼はコクリと頷いた。




prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -