■六月二十日


昼過ぎから降り出した雨が、放課後もやまずにしとしとと降り続いていた。
この分では夜までは降り続けるだろう。
朝は降っていなかったので、あのそそっかしい小動物が傘を持って来ている筈がない。
放課後の仕事の後に、送ってやってもいいかなどと考えていると、ノックの音がして彼が入ってきた。・・・折りたたみの、傘を持って。
それは小さな、ピンクの花の模様が描かれたもので、一目でこの子の物ではないと分かった。
「それ、どうしたの」
右手の、明らかに女物であるそれから視線をはずすことなく、彼に尋ねた。
沢田は僕の視線に気づき、ああ、と小さく頷いてから、
「クラスの子が貸してくれたんです。二本あるからって」
男がこれ差すの、ちょっと抵抗ありますけどねと、笑った。
「誰の?」
少し咎める様な口調になるのを止められない。
悪い事をしている訳ではないのに。
しかし予想外に彼は言いよどんだ。その様子が僕の不機嫌に拍車をかけた。
「・・・あの、京子とかいう子?」
彼女の名を出した途端、沢田は弾かれた様に顔を上げ、一瞬目が合ったかと思うとすぐに逸らした。
僕はかっと頭に血が上り、
沢田の両肩を掴むと、

彼の唇に、

僕の唇を、

押し当てた。


彼は走って逃げていった。




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