■六月八日


放課後。
終業のチャイムが鳴って三十分近く経つと言うのに、沢田はまだ顔を見せない。
窓越しに姿を見かけたので、今日は来ている筈だ。
始業式の翌日から、学校のある日は欠かすことなく応接室を訪れていたというのに。
まあ、本来ならば、彼のような一般生徒が通うことの方が不思議なのだが・・・。
正直僕は今、柄にもなく非常に不安に駆られている。
なぜなら・・・考えれば考える程、彼が急に来なくなった理由が一つに絞られてしまうからだ。
そう、あの夏服が悪い。
夏服になってからだ。沢田を見るたびに変な気持ちになるのは。
時々、セクハラまがいの目で沢田を見ている自分に気付く。これをあの子が気付いたとしたら・・・と思うとさっと血の気が引く。
夏服を廃止しなくてはと考えつつ、居てもたっても居られなくなって、応接室を出た。
見回りのつもりで当てもなくあちこちさまよっていると、体育用具室から声が聞こえた。耳を澄ますと雑魚どもの喧嘩のようだったので、後で草壁をやらせるつもりで通り過ぎようとすると。
「・・・すみません・・・」
沢田だ。
蚊の鳴くような声だったが、はっきりと判った。
「何してるの」
重い扉を開け中に入ると、数人の不良どもに囲まれて、あの子が、積み上げられたマットを背に涙を浮かべて震えていた。
「・・・覚悟はいい?」
僕の姿に震え上がった雑魚どもを片付けると、
「大丈夫?」
声をかけつつ沢田のほうを振り返った。
と。思いのほか近くまで寄って来ていた彼が、僕のシャツの裾を掴み、声が出ないようで口をパクパクさせながら、僕を見つめた。
その涙目と、胸倉を掴まれたのだろうはだけた胸元が目に入った途端、頭に血が上り、気が付くと足元にはトンファーで殴られて気絶した沢田が転がっていた・・・。



prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -