■六月一日


今日から六月。合服期間が始まる。
要するにこの二週間は、冬服でも夏服でも良いという訳だ。
まだ少し肌寒いこともあり、今日はブレザーとまでは行かなくとも、長袖で登校する生徒が多かった。
そんな中、沢田は早々に半そでに替えて来ていた。
理由は知っている。彼はいまだネクタイをうまく結べないのだ。
彼の遅刻は、もちろん寝坊もあるが、その大半は朝ネクタイと格闘していることにあるらしい。
夏服の場合、特別な行事以外ではネクタイをしなくてもよいことになっている。
最もあの赤ん坊が来てからは、「ボスになったときの練習だ」と言われ、無理やり着けさせられているらしいが、それでも校則違反でないことは気が楽なようだ。
「雲雀さんすみません、この本、何処にあるんですか?」
気が付くと僕の机の前で、沢田が顔を覗き込んでいた。
「・・・ああ、あの本棚の一番上」
最近こういうことが多い。ここに彼が居る事に慣れてしまったのだろうか、自分の警戒心が薄れているような気がする。
沢田は本を取ろうとしたが届かないようで、背伸びをして手を伸ばしていた。
仕方なく僕は彼に近づき、後ろから手を伸ばしてそれを取ってやる。
と、ふと半袖から覗く二の腕が目に入り、その細さにどきりとした。
目が離せなくなりながらも、どきどきと高鳴る心臓の音を誤魔化すように言った。
「君、もう少し筋肉つけた方がいいんじゃない?」
「え?背が届かないの、筋肉と関係ないでしょう!」
沢田はむっとした顔で反論し僕から離れたが、その後暫く僕の心音は収まることはなかった。





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