■五月十八日


昼休み、沢田は昨日の予告どおり、弁当を携えて応接室にやってきた。
両手に一つづつ、青と黄緑の包み。
てっきり、沢田の卵焼きを分けてくれるということだと思っていたので、自分の分が用意されていたことに驚いた。
「母さん、張り切って作ってましたよ」
と、青い包みのほうを僕の前におき、自分は立ったままでそわそわしている。
「座ったら?今お茶を入れる」
声を掛けるとぱっと笑顔になり、いそいそとソファーに腰を下ろした。
変な子だ。いつも座っているくせに、何故今日は遠慮していたんだ。
緑茶を入れ、弁当を開けると、卵焼きにハンバーグ、ブロッコリーとコーンと人参を和えた物、トマト、林檎が入っていた。りんごはウサギの形にされており、園児の弁当のようだと思った。
全部美味しかったが、確かに卵焼きは絶品で、うっすらとした甘みが僕好みだった。
「美味しかったって、君の母親に伝えて」
というと、嬉しそうに頷いた。
食後、そのままでという沢田の分と二つの弁当箱を持ち、給湯室に向かう。
作ってもらったからには洗って返すのは礼儀。僕の家はそういうことに厳しい。
後から付いて来た沢田と一緒に話しながら弁当箱を洗っていると、なんだか新婚夫婦のようだと思い、おかしくなった。
と、ふと、今まで手よりも口を動かすのに夢中だった沢田が、話すのをやめ一点を見つめていた。
そちらに視線を動かした僕は、はっとした。
そこには毎日注文している仕出し弁当が、手付かずで置いたままだった。
しまった。僕としたことが・・・片付けておくべきだった。きっとこの子は、余計なことをしたと思っている。
何と声を掛けてよいか分からずに、二人でただ弁当箱を洗い続けた。



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